COVID-19 and the precarity of Indonesian workers in the oil palm production in Sabah, East Malaysia
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/01171968231206382
要旨(報告書の冒頭に記載の要旨の和訳):
マレーシア・サバ州のアブラヤシ生産における児童労働の測定を、以下の4つの領域に焦点を当てて行った。(i) アブラヤシ関連活動への子どもの関与、(ii) その活動に費やす時間、(iii) 活動の種類、(iv) 学習やレクリエーション活動に費やす時間。子どもたちのアブラヤシ活動への関与をより深く理解するために、ジェンダー、年齢、アイデンティティ、教育という4つの社会的観点から分析を行っている。全体的な調査結果からは、「親の手伝いをする子ども」と「働く子ども」の間には明確な概念的・実践的な違いが存在する一方で、「働く子ども」と「児童労働」の区別は困難であることが示された。実際、調査対象となった「働く子ども」の大半は、広義の児童労働の定義に該当していた。児童労働を生み出す背景には、地域の文脈や根本的要因が複雑に絡み合っている。
要約
(児童労働の研究に関する方法論についての記述が多いですが、この要約では、それは省いて、マレーシアの労働状況に関する記述をまとめました)
背景:
- 国際労働機関(ILO)と国連児童基金(UNICEF)によると、2020年時点で、全世界で推定約1億6,000万人の子どもたちが児童労働に従事している。そのうちの3人に1人はアジア太平洋地域におり、その約70%がアブラヤシ農園を含む農業分野で働いている。
- 児童労働とは、「子どもたちの幼年期や可能性、尊厳を奪い、身体的・精神的発達に有害な労働」と定義されている(ILO)。児童労働に従事する子どもたちは、可視化されず、さまざまな形態の労働搾取にさらされていることが多い。奴隷化されたり、家族から引き離されたり、深刻な危険や疾病にさらされたりするなど、「最悪の形態の児童労働」も存在する。
- 世界的には、児童労働の主要な原因は貧困である。加えて、適切な労働機会の欠如、紛争、避難民の発生など、他の要因とも結びついている。たとえば、環境災害や気候変動とも関連している。
- 適切かつ質の高い教育へのアクセスの欠如も、児童労働の重大な要因であり、結果でもある。児童労働に従事する子どものほぼ半数が、いかなる形態の教育にも在籍していないと報告されている。マレーシアでは、初等教育が義務化されているが、非マレーシア国民の子ども(移民労働者や難民の子どもを含む)はその対象外となっている。教育を受けられない場合、若年での労働に従事せざるを得なくなったり、犯罪組織による物乞い活動に巻き込まれるリスクも高まる。
- ILOは2019年に児童労働を推定するための標準的な方法論を発表した。この方法論は主にマクロレベルの行政データに依存しており、児童労働の推定に役立つものの、その数値は国ごとに大きく異なり、変動も大きい。さらに、「働く子ども」「親を手伝う子ども」「家事を担う子ども」といった、児童労働と類似した概念との区別が困難である。
- マレーシアのパーム油セクターは労働集約的な産業であり、約50万人の労働者が雇用されている。その大多数は移民労働者である。サバ州は、マレーシア第2位のアブラヤシ生産州である。既存の研究では、数万人規模のインドネシア人、フィリピン人、無国籍の子どもたちが、アブラヤシ関連の作業に非公式に従事している、あるいは親の仕事を手伝っていると報告されている。インドネシア政府は、少なくとも6万人のインドネシア人の子どもたちがサバ州のプランテーション周辺に居住していると推計している。フィリピン人の子どもの人数を示す明確な資料は存在していない。
- マレー半島(西マレーシア)とは異なり、サバ州では、移民労働者(主にインドネシア人およびフィリピン人)が、配偶者や子どもを含む扶養家族を「扶養者ビザ(特別許可)」の下で合法的に帯同し、共に生活することが認められている。しかし、手続きの煩雑さなどにより、この規制枠組みの運用が効果的に行われていないことに加え、インドネシアやフィリピンからの不法移住が日常的に起きていることから、一部の移民労働者とその子どもたちは「非正規就労者・扶養者」となっている。さらに、多くのインドネシア人およびフィリピン人にとって、サバ州への移住には長期かつ複雑な歴史的経緯があり、子どもたちが身分証明書を持たず、無国籍児になるリスクを高めている。
- マレーシアは児童労働の撲滅にとって重要な複数のILO条約を批准している(ILO「最低年齢条約(第138号)」、「最悪の形態の児童労働条約(第182号)」、「強制労働条約(第29号)」など)。1995年以降、「児童の権利に関する条約(CRC)」の締約国でもある。
- しかし、国内法(サバ労働条例などの州法を含む)では、児童の雇用を年齢層に応じて条件付きで認めている。条件には、職種、勤務日数、労働時間などに関する制限が含まれる。このような柔軟性は、多くの開発途上国において合理的かつ一般的な制度と見なされている。これらの法規のいずれにも「児童労働」という用語が明確に定義・言及されていないため、児童労働の実態に関する認識不足や混乱が生じている。
- マレーシアにおいて、子どもたちがさまざまな経済活動や産業に関与している実態については、複数の研究や報告書が存在している。1990年代には、都市部・農村部を問わず児童の雇用が存在していたこと、農業を含むさまざまな経済分野に影響を与えていたことが明らかになっている。
- 調査・報告によって以下が明らかになっている。
- サバ州の貧困家庭出身の移民の子どもたちが、パーム油農園を含むさまざまな農場で一般的に雇用されている。
- マレーシア国民の子どもや移民の子どもたちが、農業や漁業において親を手伝うことは一般的である。
- 都市部および都市周辺部では、子どもたちはビニール袋、魚、野菜の販売、荷物運び、タバコ販売といったインフォーマル経済に従事している。
- 移民の子どもたちがパーム油企業によって低賃金で雇用されている。
- パーム油農園で働く子どもたちが適切な防護マスクを支給されず、有害な化学物質に強く曝露されている。
調査結果:
- サバ州ラハダトゥの複数の村において、2019年1月に、43名の子どもを対象とした調査およびそのうち12名へのインタビューを実施した。以下、調査結果:
- パーム油関連活動への子どもの関与:
- 43名の回答者のうち、13名はパーム油関連のいかなる活動にも関与していなかった。15名は「親を手伝う子ども」(1日あたりの従事時間が4時間未満)、15名(全体の35%)は「働く子ども」(4時間以上)に分類された。
- ジェンダー分析:女子児童は男子児童に比べて、パーム油関連活動への関与が少なかった。男児30人のうち3分の2以上が、現場で親を手伝ったり、働く子どもとして活動に関与していた。この結果は、農業分野を含むほとんどの経済部門において、男児の方が女児よりも多く関与しているという世界的傾向を反映している。男児は鋭利な道具を使ったり、化学薬品の散布などを行う傾向があるのに対し、女児は落ちた果実の回収や、親に食事や水を届けるといった軽作業を担うことが一般的である。一部の女児は、自宅で幼い家族の世話や家事を手伝っていた。
- 年齢:12〜14歳の子どもたちは、15〜17歳の子どもたちと比べて、パーム油活動への関与が少なかった。15〜17歳の回答者のうち12人が「働く子ども」、6人が「親を手伝う子ども」と分類され、2人が活動に関与していなかった。他の既存研究でも、主に15歳頃から農業分野での労働を始める傾向があるとされている。
- アイデンティティ:無国籍者や非マレーシア国民の子どもたちの方が、マレーシア国民の子どもたちよりも、パーム油関連活動に関与する傾向が高い。
- 教育:正規の教育(政府の学校および代替学習センターの両方)を受けている子どもたちは「働く子ども」となる可能性が低い一方で、それでもなおパーム油活動で親の手伝いをしている可能性はあった。正規の教育を受けていない子どもたちのうち、半数以上が「働く子ども」として分類され、彼らの多くが初等教育を終えた後に中途退学していた。
- 非マレーシア国民の子どもたちは、有効な渡航書類を所持していれば、政府の教育制度に就学することは一応可能であるが、非マレーシア国民に課される高額な学費が、政府学校への進学を妨げる要因となっている。サバ州には、インドネシア人およびフィリピン人の子どもたち向けに、初等および中等教育レベルの代替学習施設が複数存在するが、中等教育レベルの学習センターは数が限られている。その結果、多くの非マレーシア国民の子どもたちは初等教育後、進学ができないか、あるいは進学に関心を示さない傾向がある。
- アブラヤシ関連活動に費やす時間:
- 「親を手伝う子ども」は、1日あたり平均2時間未満、「働く子ども」は通常7〜8時間を費やしていた、これは週換算で約13時間で、国際的な基準(週14時間以内)を満たしている。「働く子ども」は週50時間以上働いており、これは児童労働の強い指標となる。
- ジェンダー:男子の方が女子よりも現場で親を手伝う時間が長い。「働く子ども」についても、男子の方が長時間働いている。女児は家事を手伝う時間が長いため、現場での労働にはあまり時間を割かない傾向にある。
- 年齢:15〜17歳の子どもたちの方が、12〜14歳の子どもたちよりも、現地で親を手伝う時間が長かった。
- アイデンティティ:非マレーシア国民の「親を手伝う子ども」「働く子ども」は、マレーシア国民の子どもよりも、現場でより長時間を費やしていた。
- 教育:正規の教育を受けていない「親を手伝う子ども」「働く子ども」は、より長時間を費やしていた。
- 子どもたちが現場で行うアブラヤシ関連活動:
- 「親を手伝う子ども」は、比較的安全性の高い軽作業(落ちた果実の回収や施肥作業など)を行っていた。15〜17歳の男児は、刈り取り(スラッシング)といった他の作業も行っていた。スラッシングは鋭利な道具を使用するため、危険な作業とみなされる。女児は、落ちた果実の回収といった作業に従事する傾向が強いが、働く親に食事を提供することや、弟妹の面倒を見るといった活動も行っていた。
- 「働く子ども」は、より重労働で危険性の高い有害な作業を行っていた。15〜17歳の男児は、主に収穫、搬送、パーム葉の積み重ねといった、一般的に成人労働者が従事する代表的な作業を行っていた。女児は、ポリバッグへの土詰め作業や苗床での除草作業といった作業を行っていた。
- 学習・レクリエーションに費やす時間:
- 全体として、子どもたちは1日あたり平均約5.2時間を正規教育(子どもたちが正式に就学している教育活動)、約0.7時間を非正規の学習(正規の教育制度外の学習活動:本の読書、塾通い、宗教教育など)、約2.3時間をレクリエーション・スポーツに充てていた。
- ジェンダー:男児は、女児よりも学習(正規・非正規の両方)およびレクリエーション・スポーツ活動に多くの時間を費やしていた。
- 年齢:15~17歳の子どもたちは、12~14歳の子どもたちと比べて、学習とレクリエーション活動により多くの時間を費やしていた。
- アイデンティティ:非マレーシア国民の子どもたちは、マレーシア国民の子どもたちよりも学習およびレクリエーション活動に多くの時間を費やしていた。
- 正規教育に就学できている子どもたちは、学習およびレクリエーション活動の両方により多くの時間を費やしていた。正規教育へのアクセスが困難な子ども(その89%は非マレーシア国民の子ども)は、1日あたり平均約3.4時間しか費やしていなかった。これは、「アイデンティティ」と「教育(正規教育への就学)」が、子どもたちのアブラヤシ活動への関与に関連する重要なリスク要因であることを示している(学習やレクリエーション活動に費やす時間が少ないほど、アブラヤシ活動を含む他の活動に時間を費やす可能性が高くなる)。
- 本研究では、「親を手伝う子ども」と「働く子ども」には明確な違いがあった。「働く子ども」は、児童労働の広義の定義に該当すると結論づけられる。
- 非マレーシア国民であることおよび正規教育への就学ができないことが、アブラヤシ活動などの経済活動への子どもたちの積極的な参加を促していることがわかった。
- 慢性的なニーズ(特に貧困、身分証の欠如、正規教育への未就学)が、子どもたちのアブラヤシ活動への関与を促していることがわかった。これでは、子どもたちは自らの意思で関与しているとは言えない。
- 社会的な規範、責任感、期待といった要素も、サバ州における子どもたちのアブラヤシ生産への積極的な関与を促す要因となっている。たとえば、男子の子どもたちは、将来家計を担うべき存在とされ、アブラヤシ活動に積極的に関与する傾向がある。一方で、女子の子どもたちは、将来的に「主婦」になることが期待されており、家事を主に担うことが多い。