パーム油の問題点

パーム油の問題点

パーム油は、環境・社会面でさまざまな問題を抱えています

パーム油とトラック

パーム油はアブラヤシの果実から搾油されたものです。アブラヤシ農園(プランテーション)は、効率的に生産を行うために数千から数万ヘクタールの土地を転換してモノカルチャー栽培を行うため、森林減少やそれにともなう生物多様性の喪失など、環境面への影響が以前から問題視されてきました。しかしそれだけでなく、広大な農地を必要とし、また労働集約的な産業であるという性質上、その地域に昔から生活している地域住民との土地を巡る紛争や労働者の権利侵害など、社会的な側面からの問題も各地から報告されています。パーム油の主な生産国は、政府のガバナンスが脆弱な途上国であるため、こういった問題の背景には汚職が絡んでいる場合も少なくありません。

森林減少

森林減少

「写真提供:内田道雄」

アブラヤシは収穫後24時間以内の搾油が必要であることから、広大な農地にそれに見合う規模の搾油工場を併設することが最も効率的であることから、農園面積が数千から数万ヘクタールと大規模になるという特徴があります。現在、世界のパーム油生産の85%を占めるインドネシアとマレーシアでは、アブラヤシ農園開発が森林減少の最も大きな原因となっています。1990年~2010年までの20年間に約360万ヘクタール(九州程の面積)の森林が、アブラヤシ農園に転換されました*。商業伐採によって森林が部分的に荒廃した場合は時間とともにある程度は再生しますが、アブラヤシ農園の場合は森林を皆伐してつくられるため、そこにあった森林生態系はすべて失われてしまうのです。

 

*Mongabay2013年11月12日の記事
https://news.mongabay.com/2013/11/3-5-million-ha-of-indonesian-and-malaysian-forest-converted-for-palm-oil-in-20-years/

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生物多様性の喪失

生物多様性の喪失

「写真提供:Centre for Orangutan Protection (COP)」

パーム油の生産は、「生物多様性の宝庫」ともいわれる熱帯地域に集中しています。アブラヤシ農園の開発にともなう森林減少により、オランウータンやゾウなどの絶滅危惧種を含む野生生物の生息地も同時に失われています。ボルネオ島のピグミーゾウの生息数は1500頭以下で、オランウータンは生息地の80%がすでに失われました。スマトラ島でも、ゾウは数千頭以下、オランウータンは6600頭以下、トラは500頭程度にまで減少していると報告されています*。人間による開発が野生生物の生活圏に入り込むようになった結果、野生生物がアブラヤシ農園の害獣として殺害、捕獲される事例も後を絶ちません。インドネシアでは、このような被害を受けているオランウータンを保護・救出するための取り組みが国内外の団体によって行われていますが、野生復帰させるための森林はアブラヤシ農園等の開発により減少の一途をたどっているため、保護や救出活動は対症療法にしかならないという現実を抱えています。

 

*Rainforest Action Network, 2013, Conflict Palm Oil: How US Snack Food Brands are contributing to Orangutan Extinctions, Climate Change and Human Rights Violations 

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気候変動と森林火災

泥炭湿地と火災

「写真提供:熱帯林行動ネットワーク(JATAN)」

インドネシアは2015年に大規模な森林火災・煙霧に見舞われ、周辺国にも被害が及んだことで大きな話題となりましたが、毎年乾季に起きている森林火災は泥炭地の開発と大きく関連しています。インドネシアでは2015年森林火災によって日本の年間排出量を超える約16億トン*1の温室効果ガスが排出され、気候変動を進める大きな原因になっています。泥炭地とは、常に水に浸かっているため植物が分解されずに堆積してできた土壌で、大量の炭素を固定しています。インドネシアでは、スマトラ島、カリマンタン島、パプア島を中心に約2000万ヘクタールの泥炭地が広がっており、固定されている炭素は300億トン*2に及びます。泥炭地で開発を行う際には排水のため水路を掘削しますが、泥炭土壌が空気に触れることで温室効果ガスが排出され火災のリスクも格段に上がります。熱帯泥炭地は「地球の火薬庫」と呼ばれており、パーム油生産1トンあたりの二酸化炭素換算の温室効果ガス排出量は、石炭の2.4トン以上で、約3.9〜30トンとなっています。

 

*1 Global Fire Emissions Database
*2 インドネシア林業省(2008)
(Page, S. E., Morrison, R., Malins, C., Hooijer, A., Rieley, J. O. & Jauhiainen, J. (2011). Review of peat surface greenhouse gas emissions from oil palm plantations in Southeast Asia (ICCT White Paper 15). Washington: International Council on Clean Transportation.)

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地域住民との土地紛争

土地紛争

アブラヤシ農園開発は大規模な土地を必要とするその性質上、地域住民が権利を主張している地域と重複してしまうことがあり、その結果土地の権利を巡る紛争に発展するといった事例が各地で頻発しています。こういった問題の背景には、土地の境界が曖昧であることや、地域住民の土地に対する権利が企業や政府によって認識されていないことが挙げられます。インドネシアでは4000件以上の紛争報告があるとされ、約600件ついては土地紛争としての記録があり、マレーシアのサラワク州では少なくとも100件以上のアブラヤシ農園関連での裁判が起きているとのNGOの指摘があります*。アブラヤシ農園の境界に関する情報が一般に公開されていないことから、問題解決に向けた取り組みが難しい状況にあります。

 

* サウィット・ウォッチ(2014)と、サラワクNGOからの訴訟事例の情報提供

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労働者や子どもの人権侵害

違法労働

大規模なアブラヤシ農園は、移住労働者や日雇い労働者といった安価な労働力に支えられています。最低賃金を無視した歩合制賃金、厳しい達成ノルマの設定、農薬散布による健康被害、児童労働、始めに債務を背負わされ労働を強制される債務労働など労働者の権利が侵害される状況が頻繁にみられます。マレーシアのサバ州では、アブラヤシ農園労働者のほとんどがインドネシアからの移住労働者ですが、その子ども達はマレーシアの学校には入れません。農園が学校を作らない場合は、教育の機会を奪われることになります。こうしたことから、パーム油は米国政府労働省により、強制労働や児童労働への関与が認められる製品に指定されています。

 

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違法操業と汚職

汚職

以上に挙げたようなアブラヤシ農園開発に伴うさまざまな問題の背景には、違法な操業や汚職が関与している場合があります。インドネシアやマレーシア(特にサラワク州)政府の脆弱なガバナンスや汚職の蔓延は多くのNGOにより指摘されており、現地政府により与えられた開発許可や合法性証明であっても完全に信頼することはできません。大規模な開発が可能となっているのは、地域住民の土地権を軽視し、企業に土地配分を行うことで、政府高官や政治家が私財を蓄えるという構造があり、土地開発権の認可が汚職の温床となっています。また、こういった状況の中で、本来のやり方を無視した違法な操業が野放しにされている場合があります。例えば、無許可の農園開発、地域住民の土地権を無視した開発、禁止されている野焼きで森林火災が起きる場合や法律により保護されている国立公園にもアブラヤシ農園が広がっている事例もあります。

 

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