世界と日本の取り組み

世界のパーム油問題への取り組み

持続可能なパーム油を求める声の高まり

「持続可能なパーム油」を求める声の世界的な高まりに応えて、2004年、世界自然保護基金(WWF)、マレーシア・パーム油協会、消費財企業大手のユニリーバ社、油脂会社のAAK UK社、小売業社のミグロス社などが中心となって、持続可能なパーム油円卓会議(RSPO)が設立されました。RSPO会員は、生産会社、精油業・商社、消費財メーカー、小売業、環境NGO、社会開発NGO、銀行・投資家の7カテゴリーのステークホルダーによって構成されており、これらの代表による理事が組織の管理を行っています。
政府の取り組みとしても、欧州連合(EU)においては、2015年6月の第3回RSPO EU総会で、2020年までにEUで使用されるパーム油を100%認証油に切り替えるという計画が発表されています。実際に、EU加盟各国においては2014年末、2015年末、2016年末を目処に認証パーム油100%のコミットメントを行っています。

当初、RSPOの認証のための原則と基準として、法令遵守、特定農薬の使用抑制、保護価値の高い森林(High Conservation Value Forests:HCVF)評価、労働者の権利、地域住民の土地権の尊重などの8の原則と39基準が採用されました。この中で2005年11月以降の新規開発のための原生林やHCVF等の土地転換は原則として認められていません。ただ、他の森林を転換することは可能です。

ネスレ社の調達方針を変えた環境NGO

ネスレ

国際環境NGOのグリーンピースは2010年にショートムービー「Have a break?」を発表、世界最大の食品・飲料会社のネスレ社に対して、インドネシアの森林破壊につながるパーム油を買わないように訴えました。同社のチョコレート菓子「キットカット」がオランウータンの指からできていたというショッキングな内容の映像は、ネスレ社がFacebookやYouTubeでこのビデオや関連コメントを削除要請したことが火に油を注ぐことになり、発表から2か月に世界で150万回以上も視聴され、世界中から30万通を超える消費者のメッセージがネスレ社に届きました。その結果、ネスレ社は森林を破壊してつくられたパーム油の使用をやめるとの画期的な調達方針を発表しました。

ネスレ社が、このような調達方針を発表したことをきっかけに、さまざまな消費財メーカー企業が動きはじめ、パーム油の生産企業に変化を求めていったのです。その結果、ネスレ社の供給元だったインドネシアのパーム油生産会社GAR社が、2011年2月9日にこれ以上森林破壊を行わない新しい方針を打ち出すことになりました。

しかし、この方針は自社の農園に限定したものであり、GAR社が供給する油すべてに適用されるものではありませんでした。同時に、森林破壊をしない方針を実施するためには、その対象となる「森林」を定義する必要がありました。そのために、GAR社はコンサルタントやNGO等と共に、開発対象とすべきではない森林についての評価ツールの策定に着手し、高炭素貯蔵(High Carbon Stock:HCS)林という概念で整理し、その後もHCSアプローチの策定に寄与しています。

RSPOを超えたより厳しいレベルを求める動き

RSPOの基準では、原生林やHCVFの保護についての規定はあるものの、それ以外の森林については土地転換を行うことも、農園開発も可能となっていました。こうした状況を受けて、RSPOに対して指摘されてきた泥炭地保全の規定や土地紛争や強制労働や児童労働への対処を含めた人権尊重の規定を強化するとともに、二次林を含む森林の保護規定を盛り込んだRSPOを超える基準を掲げる「パーム油革新グループ(Palm Oil Innovation Group:POIG)」が2013年11月に発足しました。POIGにはRSPOの先進企業が参加できることとなっており、POIG の基準は、RSPOを土台としつつこれを超えて森林減少にも対処可能な高水準の認証基準として期待されています。

ほぼ同時期の2013年末には、パーム油生産大手企業のウィルマー(Wilmar)社は、グリーンピース、FoE、WWF等のNGOからの批判を受けて、「No Deforestation, No Peat and No Exploitation(PDF:225KB)」という方針を発表しました。これは、すべてのサプライヤーを対象とした画期的なものとなっています。これに呼応する形で、GAR社も森林破壊を行わないことや泥炭地保護、人権尊重を方針として規定するととともに、ウィルマー社と同様に自社のみならずすべての供給元に拡大して調達方針を適用することとしました。

一方、RSPOはPOIGの動きを受けて森林減少への対処に向けてRSPO Nextという自主基準を2015年11月に設定しています。RSPO Nextでも森林破壊ゼロ達成のために、開発対象からHCS林を外していますが、これは上述の「HCSアプローチ」の概念とは異なるものとなっています。詳しくは「お役立ち情報詳細」の「高炭素貯蔵(HCS)林と森林破壊ゼロ」の「HCSアプローチ」をご覧ください。

このように世界においては、環境配慮においてRSPO基準では不十分であり、少なくとも森林破壊ゼロが共通認識となってきています。2015年6月には、機関投資家と大手消費財企業がRSPOに対して基準強化の要望書を送付し、認証パーム油生産において、森林破壊や泥炭地開発などを禁止することを求めました。2015年に策定された国連持続可能な開発目標(SDGs)のターゲット15.2では、「2020年までに、あらゆる種類の森林の持続可能な経営の実施を促進し、森林減少を阻止し、劣化した森林を回復し、世界全体で新規植林及び再植林を大幅に増加させる」と明記されました。

こうした環境面での問題のみならず、社会的な課題もあります。特に最近問題となっているのは労働問題です。強制労働や児童労働などの労働問題、労働者の健康被害や、最低賃金以下での労働や不公正な雇用関係、組合の制限などを含めた労働者の権利侵害といった事例についての報告も多数上がっています。これらは、土地紛争事例とともに人権問題への対応としての、「保護、尊重、救済枠組み」を示している2011年に国連人権委員会で採択されたビジネスと人権に関する国連指導原則や、OECD多国籍企業行動指針(PDF:665KB)、ISO26000国際標準化機構の社会的責任規格、国連グローバル・コンパクトにおける企業の責務として対応すべき重要な課題です。こうした課題に対処し、企業の社会的責任を果たすための、「責任あるサプライチェーン」確立のために、人権デュー・ディリジェンス(詳細な調査・分析)を行い「実際の悪影響及び潜在的な悪影響を特定し、評価し、防止し、緩和し、どのように対処したかについて、説明する」必要があります。こうした問題に対処するために、RSPOにおいても基準の改善とともに、特に昨年から認証機関の監査体制の強化も進められてきています。

パーム油セクターの持続可能性に金融界からも注目

世界銀行グループで民間企業への融資を担当する国際金融公社(IFC)は、2009年時点で1億3200万ドルをのパーム油セクターの融資を行っていました。ところが、2007年にインドネシアで操業していたウィルマー社への苦情申し立てにより、コンプライアンス・アドバイザー・オンブズマン(CAO)が調査したところ、多くの問題が発覚したことから、IFCは2009年9月にパーム油セクターへの融資を凍結しました。

IFCのパフォーマンス基準は赤道原則の基礎となったもので、「熱帯湿潤原生林における商業伐採活動」及び「持続可能な管理が行われている森林以外に由来する木材または森林産品の生産または取引」[1]への金融仲介業者からの資金供与を禁じています。加えて、IFCは「高炭素価値や生物多様性価値とともに、その生態系サービスに鑑みて、高炭素蓄積の泥炭地を転換したパーム油農園の案件は支援しない」と定めています[2] 。現在、IFCはRSPOメンバーとなり活動をしています。

2006年4月にアナン元国連事務総長によって公表された国連の責任投資原則(Principle for Responsible Investment: PRI)は、機関投資家等が環境・社会・ガバナンス(ESG)といった課題を投資の意思決定に組み込み、長期的な投資成果を向上させることを目的とした原則です。日本においても、2016年9月時点で日本でもアセット・オーナー11社、インベストメント・マネージャー29社、サービスプロバイダ10社の50社が署名しています。

https://www.unpri.org/signatory-directory/?co=114&sta=&sti=&sts=&sa=join&si=join&ss=join&q

パーム油の環境・社会的な問題の深刻さへの認識が広まっており、パーム油企業からの投資の引き上げも行われたりしています。

 

[1] ExclusionList

http://www.ifc.org/wps/wcm/connect/corp_ext_content/ifc_external_corporate_site/ifc+projects+database/projects/aips+added+value/ifc_project_exclusion_list

[2] World Bank and IFC, 2011. “The World Bank Group Framework and IFC Strategy for Engagement in the Palm Oil Sector.”

http://www.ifc.org/wps/wcm/connect/4d79ad004be32e4a8f84df7cbf6249b9/WBG+Framework+and+IFC+Strategy_FINAL_FOR+WEB.pdf?MOD=AJPERES(PDF:1.9MB)

日本のパーム油問題への取り組み

日本のパーム油問題への取り組み

日本の取り組み

日本では、化成品・洗剤分野の企業においては、認証パーム油の購入に取り組む企業が増えてきています。しかし、国内で8割を占める主要な購入先である食品業界では、取り組みは遅れています。2016年9月時点で、RSPO認証を超えて、森林破壊ゼロを目指した取り組みを明記しているのは、私たちが把握している限りでは、花王と不二製油に限られています。不二製油は、2016年3月に「責任あるパーム油調達方針」を発表し、森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、人権尊重を進めることを約束しています。
こうした動きは、様々なNGOからの働きかけが引き金となって進められています。加えて、上述したように、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)やノルウェー年金基金を含めた機関投資家からの要請、国際的な企業の社会的責任を問う規律が広がっていく動きも追い風となっています。

また、2015年6月1日には、証券取引所に上場する企業については、コーポレートガバナンス・コードが導入されており、その原則2-3において「上場会社は、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティー(持続可能性)を巡る課題について、適切な対応を行うべきである。」と明記されています。ここで示されているサステナビリティーには、責任あるサプライチェーン管理を通じて、森林破壊の阻止や人権デュー・ディリジェンスの実施と問題解決への活動が含まれていると考えられます。

2015年より、グリーン購入ネットワーク(GPN)では、パーム油研究会が発足し、パーム油の調達を改善するための取り組みを進める活動が行われ、2016年3月に、「持続可能なパーム油のガイダンス[日本版]」が発表されました。2016年8月現在、RSPOに加盟している日本企業は、57社となっていますが、特に食品業界への広がりが不足しています。
そして、2016年9月27日には、RSPOジャパン・デーが開催されるなど、パーム油問題への取組が進められる機運が生まれてきています。