世界と日本の取り組み

世界のパーム油問題への取り組み
持続可能なパーム油を求める声の高まり

2004年、持続可能なパーム油を求める声の世界的な高まりに応えて、世界自然保護基金(WWF)、マレーシア・パーム油協会、消費財企業大手のユニリーバ社、油脂会社のAAK UK社、小売業者のミグロス社などが中心となり、持続可能なパーム油円卓会議(RSPO)を設立しました。RSPO会員は、生産者、精油業・商社、消費財メーカー、小売業者環境・社会NGO、銀行・投資家の7カテゴリーのステークホルダーによって構成されており、これらの代表による理事が組織の運営を行っています。

2007年には、第三者機関による認証制度が導入され、環境社会配慮に関する8つの原則と39の基準が策定されました。この原則と基準(P&C)は、5年に一度見直すことになっており、最近では2018年に改訂されています。2018年の改定では、これまで課題と認識されていたいくつかの基準が強化されました。例えば2018年以前の基準では、原生林や保護価値の高い森林(HCVF)は保護されていたものの、二次林や泥炭地などは条件付きで転換することが可能でした。

しかし、新たな基準では泥炭地の開発を一律で禁止したり、高炭素貯蔵アプローチ(HCSA)に基づき、炭素貯蔵量が多い森林を保護したりする規定が盛り込まれました。また、社会面についてもこれまで農園労働者の人権に関する基準が曖昧であることが指摘されていましたが、強制労働や児童労働などを防ぐためのより詳細な基準が盛り込まれました。

RSPO以外にも、2009年にインドネシア政府がISPO(持続可能なパーム油のインドネシア国内規定)、2013年にマレーシア政府がMSPO(マレーシアの持続可能なパーム油)という政府主導の認証制度を導入しています。しかし、現状では両認証の基準や実施面において多くの課題があり、RSPOと同等のものとして見なすことはできません。

https://palmoilguide.info/archives/2926

ネスレ社の調達方針を変えたキャンペーン

ネスレ

国際環境NGOのグリーンピースは2010年にショートムービー「Have a break?」を発表し、世界最大の食品・飲料会社のネスレ社に対して、インドネシアの森林破壊につながるパーム油を買わないよう訴えました。同社のチョコレート菓子「キットカット」がオランウータンの指からできていたというショッキングな内容の映像は、発表から2か月に世界で150万回以上も視聴され、世界中から30万通を超える消費者のメッセージがネスレ社に届きました。その結果、ネスレ社は森林を破壊してつくられたパーム油の使用を止めるため画期的な調達方針を発表しました。

ネスレ社が、このような調達方針を発表したことをきっかけに、さまざまな消費財メーカー企業が動きはじめ、パーム油の生産企業に変化を求めていったのです。その結果、ネスレ社のサプライヤーであったゴールデン・アグリ・リーソーシズ(GAR)社が、2011年2月9日にこれ以上森林破壊を行わないという新たな方針を打ち出しました。
しかし、この方針は自社の農園に限定したものであり、GAR社が供給するパーム油すべてに適用されるものではありませんでした。同時に、森林破壊をしない方針を実施するためには、その対象となる「森林」を定義する必要がありました。そのために、GAR社はコンサルタントやNGO等と共に、開発対象とすべきではない森林についての評価ツールとして高炭素貯蔵アプローチ(HCSA)の策定に寄与しています。

RSPOを超えたより厳しいレベルを求める動き

2018年以前のRSPO基準では、原生林や保護価値の高い森林(HCVF)の保護に関する規定はあったものの、それ以外の森林についてはアブラヤシ農園開発のための土地転換が可能となっていました。しかし、新たな基準では泥炭地の開発を一律で禁止したり、高炭素貯蔵アプローチ(HCSA)に基づき、炭素貯蔵量が多い森林を保護したりする規定が盛り込まれました。また、社会面についてもこれまで農園労働者の人権に関する基準が曖昧であることが指摘されていましたが、強制労働や児童労働などを防ぐためのより詳細な基準が盛り込まれました。

こうした状況を受けて、泥炭地保全の規定や土地紛争や強制労働や児童労働への対処を含めた人権尊重の規定を強化するとともに、二次林を含む森林の保護規定を盛り込んだRSPOを土台としつつ、これを超える基準を掲げる「パーム油革新グループ(Palm Oil Innovation Group: POIG)」が2013年11月に発足しました。(2022年末に解散

ほぼ同時期となる2013年末には、パーム油生産大手企業のウィルマー(Wilmar)社は、グリーンピース、FoE、WWF等のNGOからの批判を受けて、森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(No Deforestation, No Peat and No Exploitation, NDPE)方針を発表しました。これは、自社のみならず、すべてのサプライヤーに対して調達方針を適用するという画期的なものでした。

また政府の取り組みとしても、欧州連合(EU)においては、2023年5月に森林破壊防止を目的とした「欧州森林破壊防止法」(European Deforestation Regulation、EUDR)を制定しました。これは、EU域内に持ち込まれる森林リスク産品に対して、デュー・デリジェンス(リスク評価)の実施および森林破壊に関与していないことの証明を企業に義務付けるものです。

パーム油セクターの持続可能性に金融界からも注目

世界銀行グループで民間企業への融資を担当する国際金融公社(International Finance Corporation, IFC)は、2009年時点でパーム油セクターに対して1億3200万ドルの融資を行っていました。ところが、2007年にインドネシアで操業していたウィルマー社への苦情申し立てにより、コンプライアンス・アドバイザー・オンブズマン(CAO)が調査したところ、多くの問題が発覚したことから、IFCは2009年9月にパーム油セクターへの融資を凍結しました。

IFCのパフォーマンス基準は赤道原則の基礎となったもので、「熱帯湿潤原生林における商業伐採活動」及び「持続可能な管理が行われている森林以外に由来する木材または森林産品の生産または取引」への金融仲介業者からの資金供与を禁じています。加えて、IFCは「高炭素価値や生物多様性価値とともに、その生態系サービスに鑑みて、高炭素蓄積の泥炭地を転換したパーム油農園の案件は支援しない」と定めています。現在、IFCはRSPOメンバーとなり活動をしています。

2006年4月にアナン元国連事務総長によって公表された国連の責任投資原則(PRI)は、機関投資家等が環境・社会・ガバナンス(ESG)といった課題を投資の意思決定に組み込み、長期的な投資成果を向上させることを目的とした原則です。2023年3月末現在、日本からはアセット・オーナー27社、インベストメント・マネージャー78社がPRIに署名しています。2011年には「持続可能なパーム油に関する投資家作業グループ(IWG)」が組織され、NDPE方針の策定および実施を求めるなど企業へのエンゲージメントを進めています。
投融資機関によるパーム油問題に対する意識が高まる中、2018年8月には世界の90社(資産総額は約760兆円)を超える機関投資家が、RSPOに対して共同書簡を送付し、基準の強化を後押ししました。また、パーム油企業からの投資の引き揚げも行われています。2018年にはインドネシアの食品大手であるインドフード社の子会社が運営するアブラヤシ農園において、労働者への人権侵害が報告されたことで、同社に資金を提供していた米シティグループが融資を停止しました。出典またノルウェー政府年金基金(GPFG)は、2012年から7年の間に、森林破壊のリスクがあるパーム油企業33社への融資を停止しました。出典

日本のパーム油問題への取り組み
日本のパーム油問題への取り組み
日本の取り組み

日本では、化成品・洗剤分野の業界において認証パーム油の調達や調達方針を実施する企業が増えてきています。しかし、国内でのパーム油使用量の8割を占める食品業界の取り組みは比較的遅れています。

2023年3月現在で、RSPO認証の調達だけでなく、森林破壊ゼロを目指した取り組みを明記しているのは、私たちが把握している限りでは、不二製油グループ本社、日清オイリオグループ、明治、日清食品ホールディングス、雪印メグミルク、花王、伊藤忠商事、三井物産、江崎グリコ、カルビー、森永製菓、味の素、パルシステム、J-オイルミルズ、日本ケンタッキー・フライド・チキン、ユニ・チャーム、三菱商事、丸紅、住友商事の19社(企業格付け2022を参照)です。これらの企業の先駆けとなる不二製油グループ本社は、2016年3月に「責任あるパーム油調達方針」を発表し、森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、人権尊重を進めることを約束しています。

こうした動きは、さまざまなNGOからの働きかけが引き金となって進められています。加えて、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)やノルウェー政府年金基金を含めた機関投資家からの要請、国際的な企業の社会的責任を問う規律が広がっていく動きも追い風となっています。

また2015年6月1日には、証券取引所に上場する企業に適用されるコーポレートガバナンス・コードが策定されました。この原則2-3では「上場会社は、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティ(持続可能性)を巡る課題について、適切な対応を行うべきである。」と明記されています。ここで示されているサステナビリティには、責任あるサプライチェーン管理を通じて、森林破壊の阻止や人権デュー・ディリジェンスの実施と問題解決への活動が含まれていると考えられます。(2018年と2021年に改訂)

グリーン購入ネットワーク(GPN)では、2015年にパーム油研究会が発足し、パーム油の調達を改善するための取り組みを進める活動が行われ、2016年3月には「持続可能なパーム油のガイダンス[日本版]」が発表されました。2016年9月には、RSPOジャパン・デーが開催されるなど、パーム油問題に対する取り組みの機運が高まっています。2022年10月現在、RSPOに加盟している日本企業は280社となっています。