今までの流れ
「植物由来の燃料は環境にやさしい」はホント?
一般的に植物由来のバイオマスは「カーボンニュートラル」と言われており、植物は生育時に二酸化炭素を吸収・固定するので、燃やすことで排出される二酸化炭素を相殺して排出量を0(ゼロ)と考えることができるというものです。しかし、ライフサイクル(栽培から燃焼まで)全体での排出量を考えた場合、遠い国から日本まで輸送することで多くの温室効果ガス(GHG)が排出されます。また、これらの作物を栽培する過程で、熱帯林や泥炭地など炭素を吸収・固定している土地を転換して開発する場合、ここから莫大な温室効果ガス(GHG)が排出されることになり、再生可能エネルギーとして適切ではありません。
アブラヤシ農園開発のために切り開かれた熱帯林
(撮影:熱帯林行動ネットワーク)
泥炭地で排水するために作られた水路
(撮影:熱帯林行動ネットワーク)
それ以外にも、パーム油はその生産過程において森林破壊や土地紛争、労働者の人権侵害などさまざまな問題が指摘されています。世界最大のパーム油生産国であるインドネシアでは、アブラヤシ農園開発が森林減少のもっとも大きな原因とされてきました。インドネシアとマレーシア、パプアニューギニアでは、2017〜2019年までにアブラヤシ農園のために毎年約8万6千ヘクタールの森林が失われました。これは、東京都の半分に匹敵するほどの広大な面積です。森林の減少にともない、オランウータンをはじめとした貴重な野生生物のすみかも失われてしまいます。また、森林を利用しながら生活している先住民族との土地の境界をめぐる紛争も頻発しており、インドネシアではアブラヤシ農園開発による土地紛争が550件発生しています(Sawit Watch, 2020)。アブラヤシ農園がつくられた後も、労働者に対する搾取や人権侵害が横行しています。こういった問題を改善するために「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」などの認証制度に期待が寄せられていますが、必ずしも問題が起きていないことを保証するものではありません。最近では「マレーシアの持続可能なパーム油(MSPO)」や「持続可能なパーム油のインドネシア国内規定(ISPO)」など生産国政府によりつくられた国別基準もありますが、基準や制度面において欠陥があり、RSPOと同等の認証制度として見なすことはできません。
アブラヤシ農園での収穫作業の様子
(撮影:熱帯林行動ネットワーク)
開発により住処を失ったオランウータン
(撮影:Centre for Orangutan Protection)
知らないうちにあなたの財布が使われている!
FITは、再生可能エネルギーを普及させるために発電事業者から賦課金を使って高い値段で電気を買い取るというものです。バイオマス発電の場合、買取価格は20年間にわたり国に保証されます。しかし、この賦課金は、わたしたちが毎月支払っている電気料金に上乗せされている「再生可能エネルギー発電促進賦課金」なのです。2019年5月分から2020年4月分までの「再生可能エネルギー発電促進賦課金」は、2.95円/kWhと定められており、これは世帯平均で13,000円ほど負担している計算となります。再生可能エネルギーを推し進めるための制度の下で、わたしたちの負担によって化石燃料よりも温室効果ガスの排出量が多く、生産国でさまざまな問題を抱えているパーム油が使われてしまってもよいのでしょうか?