COVID-19 and the precarity of Indonesian workers in the oil palm production in Sabah, East Malaysia
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/01171968231206382
◼️要旨(報告書の冒頭に記載の要旨の和訳):
COVID-19パンデミックは、移住労働者の不安定な立場を明らかにしただけでなく、それをさらに悪化させた。政府のロックダウン措置はパンデミック抑制を目的としていたが、マレーシア東部サバ州の一部の中小規模のアブラヤシ農園経営者は、こうした措置を利用して労働者の移動の制限や監視の強化を常態化・正当化し、労働者の非正規状態を長引かせるとともに、労働者の声を抑え込んだ。その結果、移住労働者は雇用主の裁量的な行動に依存せざるを得なくなった。雇用主はしばしば、道徳的な物差しで移民を評価し、権利や福祉に値しない存在とみなす傾向があった。このような抑圧的な労働体制は、政府が企業や雇用主を支配の仕組みとして利用し、移住労働者の権利を制限することによって、労働者の不安定性を悪化させている一因であることを示している。
◼️要約
はじめに
19世紀後半から20世紀初頭に始まった労働移住の長い歴史があるにもかかわらず、マレーシアは依然として労働力不足を補うための一時的な手段として労働者の移住を捉えている。その結果として、現在の移住インフラは多次元的な不安定性を生み出している。さらに、移民の採用・雇用をめぐる規制と商業慣行が複雑に絡み合っていることにより、移住労働者は労働権を大きく制限された状態に置かれている。
過去数年間、マレーシアのパーム油産業における労働者の不安定な状況が次々と明るみに出され、告発されてきた。これを受けて、国内のアブラヤシ農園経営者の間では、そうした告発に対応するための誓約や行動が見られるようになった。しかし、このような誓約や取り組みは、労働者の不安定な状況に対する批判や市場からの圧力の影響を直接受けている、大規模なアブラヤシ農園経営者に限られている。その他の事業者、特に産業全体の少なくとも50%を占めている中小規模の農園経営者たちが、現場で移住労働者をどのように扱っているのかについては、ほとんど知られていない。
シンガポール、クウェート、アラブ首長国連邦など、多数の移住労働者を受け入れている国々では、COVID-19パンデミックの震源地は、主に都市部および郊外にある、移住労働者が集まり生活する地域に集中していた。しかし、マレーシアにおけるアブラヤシ・プランテーションの多くは遠隔地(および農村部)に位置していることから、小中規模の農園主によって雇用されている「プランテーション・プレカリアート」がパンデミックによってどのような影響を受けたのかについては、ほとんど知られていない。
本研究は、サバ州の小規模・中規模の農園主に雇用されている16人のインドネシア人移住労働者への電話インタビューに基づき、パンデミック期間中のプランテーション移住労働者の不安定な日常の実態をより深く理解しようとするものであり、プレカリアートや労働者の不安定性に関する知見の蓄積に寄与することを目的とする。
マレーシアにおけるアブラヤシ生産:グローバル・サウスの視点
マレーシアのアブラヤシ産業は、大規模な製油所やプランテーション、中小規模の栽培業者、さらに50ヘクタール未満のアブラヤシ農地を所有する独立系の小規模農家などで構成されている。2020年(パンデミック1年目)、マレーシアでは少なくとも65万人のアブラヤシ小規模農家と、200万人以上の人々がアブラヤシ産業を収入源としていると推定された。アブラヤシ産業は1世紀以上の歴史を持つにもかかわらず、依然として労働集約型の産業であり、主に安価な移住労働者に依存している。
収益性の高い成長(大規模なアブラヤシ生産など)を支えるための労働市場の自由化が、雇用関係や労働条件における不安定性の増加につながっている。労働の柔軟性(臨時雇用やcasual work(訳註:アルバイト・臨時の仕事)を含む)を促進する、ビジネス重視の規制環境と政策が、労働搾取や人身取引の増加を大きく助長している。
このような背景の下、グローバル・サプライチェーンにおける労働者の不安定性を解消するため、多国籍企業が主導する取り組みが増加している。例えば、コンシューマー・グッズ・フォーラム(CGF)に加盟する多国籍企業の連合は、強制労働の根絶など、労働者の不安定性に対処するためのグローバルな取り組みを設立した。これらの取り組みは、アブラヤシ生産者の関心を引いている。加えて、アブラヤシ生産における強制労働に関連した労働権侵害の告発が増加したことで、多くの大規模なアブラヤシ生産者は、これらの疑惑に対処するために行動を余儀なくされている。
2020年から2021年にかけて、マレーシアの大手アブラヤシ生産企業の一部が、強制労働の疑いにより、米税関・国境警備局(CBP)から「違反商品保留命令(WRO)」を受けた。これを受けて、大手アブラヤシ生産企業らは状況の改善を約束した。例えば、WROの対象となったFGVホールディングスは、自社事業の強制労働事案に関連するリスク要因を排除する取り組みとその進捗について積極的に情報を開示している。同様に、他の大手アブラヤシ事業者や企業も、労働条件や苦情申立てメカニズムの強化などを実施している。
しかし、マレーシアにおける企業のこうした取り組みは、(i)多国籍企業やCGFなどのイニシアティブと直接的な供給関係を有し、(ii)米CBPのような公的告発や圧力の影響を直接受ける、大手アブラヤシ生産者に限定されている。他方で、特にサプライチェーン上流の末端に位置する中小規模のアブラヤシ生産者は、これらの取り組みや告発、圧力に対応する重要性や緊急性をしばしば認識していない。
本稿では、中小規模のアブラヤシ生産者(50〜9,999ヘクタールのアブラヤシ農地を所有または運営する小規模農家・企業)に注目する。これらの中小規模の生産者は、自らの農地近隣で操業する第三者の製油工場に作物を供給していて、より大規模なアブラヤシのサプライチェーンに接続している。特にサバ州においては、中小規模の生産者がアブラヤシ産業関係者の約50%(推計)を占めている。
COVID19と労働者の不安定性
マレーシアでは、2021年12月初旬時点で260万件の感染例および約3万人の死亡が記録されている。COVID-19の拡大を抑制するため、マレーシア政府は2020年3月に活動制限令(MCO)を導入することにより、外出を禁止し、必要不可欠なサービスのみ操業を許可した。MCOは、公共の集会、外国人訪問者および移住労働者の入国を制限し、すべての公共および民間の施設を閉鎖した。
COVID-19の急速な感染拡大は、過密な寮に住み不衛生な生活環境に置かれている移住労働者の人口と関連づけられている。特にマレーシアでは、COVID-19の流行中、労働権侵害の状況が悪化していると報告されている。たとえば、マレーシア人権委員会は、建設、サービス、製造といったセクターの移住労働者が、雇用主によって就労を許可されず、ロックダウン措置が導入された際にも雇用主から何の連絡も受けなかったと報告している。さらに、労働者は自らの雇用状況について知らされず、(就労許可証は雇用主によって毎年更新される必要があるため)移民としての在留資格についても不明なままであった。COVID-19の流行以前から、臨時かつ柔軟な労働、不規則性、non-wage benefit(保険など、賃金以外の福利厚生)のない日雇い賃金労働は、グローバル・サウス諸国、特にアジアにおける移住労働者の雇用に共通する特徴であった。このような特徴は、厳しく制限的な規制によって強化されている。例えば、雇用主に紐つけられた就労許可制度は、雇用主が労働者に対して恣意的な支配を行使することを可能にしている。現在の労働体制は、社会的プレカリティ(労働者の下請け契約、雇用の不安定性、低賃金、債務労働を伴う)と、政治的プレカリティ(雇用主への依存、生政治的支配、逮捕や国外退去を伴う)という、二重の不安定性を生み出している。
マレーシアのアブラヤシ産業では、労働の柔軟性および臨時雇用がアブラヤシ生産者によって広く実践されている。これにより雇用主は、市場状況に応じて労働者を雇用・解雇し、市場の変動に柔軟に対応することが可能になっている。こうした特徴(労働の柔軟性および臨時雇用)は、他の産業(製造業や建設業など)でも比較的一般的であるが、アブラヤシ部門の政治的生態系には、この部門特有の労働体制の特徴が存在する。たとえば、アブラヤシ作業の季節的な変動(土地の開墾・整地、収穫、施肥、落果の収集など)は、柔軟な労働力(雇用、再雇用、他農園からの借用が可能な労働者)を必要とする。労働の柔軟性および臨時雇用、そして生産者の雇用行動や実践は、複数の層にわたる複雑な労働力採用インフラによって形づけられている。こうしたインフラには、送出国および受入国の双方に存在する仲介業者やブローカーが含まれる。こうしたインフラは、アブラヤシ生産者が非正規労働者を政府の正規化プログラムの下で採用・再採用・再雇用すること、あるいは労働者を別の雇用主へと切り替えることを可能にしている。このシステムは、雇用主が市場の変動に柔軟に対応することを可能にする一方で、労働者にとっては雇用の不安定性、不確実性、不安定な収入、書面による雇用契約のない非正規雇用といった状況を引き起こしている。
サバ州のアブラヤシ生産に従事する移住労働者
マレーシアには一時的に就労する移住労働者が推定200万人から550万人存在する。これには、有効な書類を持つ者と持たない者の双方が含まれる。有効な書類を持つ労働者は「documented migrant worker(正規移住労働者)」と呼ばれ、有効なパスポートと就労許可証の両方を保有していることを意味する。就労許可証は現地で「Visit Pass Temporary Employment(VPTE、一時雇用訪問許可証)」と呼ばれている。一方で、有効な書類を持たない労働者は「undocumented migrant worker(非正規移住労働者)」と呼ばれ、有効なパスポートも就労許可証も持っていない。マレーシア当局は、正規移住労働者の数は把握しているが、より多いと推測される非正規移住労働者の正確な数を把握できていない。
本稿は、サバ州のアブラヤシ生産に従事するインドネシア人移住労働者に注目する。マレーシアにおける総インドネシア人労働者数713,925人のうち、ほぼ半数がプランテーションおよび農業部門の両方で働いている。サバ州で働くインドネシア人移住労働者(正規・非正規を含む)の正確な数は不明である。しかし、パンデミック発生直前の2020年にサバ州で確認されたインドネシア人の正規移住労働者は合計126,533人であり、そのうち3分の2以上が州内のプランテーションおよび農業部門の両方で働いていた。アブラヤシ産業の労働力の約80%は移住労働者が占めており、その大多数がインドネシア人移住労働者であると推定されている。
サバ州はマレーシア第2のアブラヤシ生産州であり(サラワク州に次ぐ)、国内のアブラヤシ生産量の約25パーセントを占めている。サバ州では、アブラヤシ産業と一連の社会現象(移民、貧困、遠隔度の高さ、国籍や法的雇用状況の欠如など。主にインドネシア人やフィリピン人労働者とその子どもたちに見られる)が複雑に交差している。サバ州は、マレー半島とは異なり、移住労働者が配偶者や子どもなどの家族を連れてサバ州に滞在することが法的に認められている。その結果、移民の子どもたちは親の手伝いや小・中規模農園での低賃金の長時間労働に従事しているとの報告がある。一部の子どもたちは基本的な正式教育を受けられていない。
既存の研究において、サバ州のアブラヤシ生産における移住労働者の不安定な状況が指摘されている。労働者は雇用の不確実性、不安定さ、そして労働搾取に対する高い脆弱性に直面し続けている。さらに、サバ州の正規・非正規移住労働者の身分証明書(パスポートなど)の不法な保持、賃金未払い、労働者の移動の自由や団結権・団体交渉権を制限する慣行に関する告発や裁判が増加している。しかし、これらの研究は主に大規模なアブラヤシ事業管理地(コンセッション)における労働者の状況を対象としており、サバ州の多くの小規模・中規模農園で雇用されている労働者の状況はほとんど知られていない。
主な調査対象およびアブラヤシ生産者のプロフィール
サバ州Lahad Datu郡の小規模・中規模の農園主に雇用されている16人のインドネシア人正規・非正規移住労働者(29〜41歳)に電話インタビュー(2021年3月〜10月実施)を行なった。対象者のサバ州滞在期間は平均10〜13年。9名は、妻子と共に滞在していた。16人全員が、アブラヤシ生産における最も重要な作業(収穫、施肥、果実の積み込み、農薬散布、脱落果の収集)を行っている。これらは最も一般的なアブラヤシ作業であり、地元の労働者を惹きつけないため、移住労働者に大きく依存している。
ロックダウン期間中の不安定性
監視の強化、隔離、移動の制限
- 多くの中小規模のプランテーションは、公共施設から遠く離れた遠隔地に位置している。これらの農園は高い警備体制が敷かれ、フェンスで囲まれているが、一部の農園では明確な境界がない場合もある。COVID-19の発生以前から、サバ州では、移住労働者に対するさまざまな労働権侵害が報告されていた。この状況は、農園の移住労働者に対する法的保護および実効的な救済手段の欠如により、さらに深刻化していた。2018年には、厚生労働協会(FLA)およびCGFが共同報告書を発表し、パスポートの没収、賃金の未払い、明確な雇用条件なしに非正規移住労働者を雇用することなど、アブラヤシ産業における移住労働者の権利侵害が蔓延していることを示した。
- 2020年3月に全国的なロックダウンが実施されると、農園の所有者たちは任意のロックダウン措置を導入するなどの対応を行った。任意のロックダウン措置とは、労働者の農園内外の移動を制限するものであった。インドネシア人労働者との遠隔インタビューでは、任意ロックダウン(2020年3月〜2020年9月)が労働者に与えた深刻な悪影響が明らかになった。
- 任意ロックダウンには明確な期間が設定されておらず、説明責任も欠如していた。政府が解除命令を出さない限り、企業が任意ロックダウンを継続できるという前提に立っていた。また、プランテーションが労働者の権利を侵害したり搾取したりしていないことを確認するための監視体制も存在しなかった。
- 長期にわたるロックダウン措置は、労働者の移動の自由および社会的孤立に関する深刻な懸念を引き起こした。多くのアブラヤシ農園が遠隔地に位置し、加えて電話や通信回線が不安定であることが重なり、労働者が外部社会と連絡を取ることが困難になっていた。さらに、監視カメラ(CCTV)が戦略的な場所に設置されており、農園の敷地外に出ることを思いとどまらせるための威圧の手段となっていた。
国家支援による正規化プログラムと非正規状態の長期化
- 再雇用(rehiring)、または正規化(regularization)と呼ばれるこのプログラムは、非正規移住労働者を正式な雇用の枠組みに含める(あるいは再度含める)ことにより、非公式な雇用を排除することを目的としている。このプログラムにより、正規化申請が承認された非正規移民はマレーシアの法律の下で保護を受けることが可能となる。また雇用主は、すでにマレーシア国内にいる移住労働者を雇用することが可能となる。
- COVID-19の感染拡大以前より、主にインドネシア人およびフィリピン人の何万人もの移住労働者が、政府主導の正規化プログラムのもとに置かれていた。インドネシア人およびフィリピン人労働者がこれらの正規化プログラムに参加する理由は、雇用主が年次の労働許可証の更新を怠った場合や、労働者が雇用主から逃亡した場合などがある。正規化プログラムによって移民および雇用の地位を正当化する機会が得られることを認識した上で、サバ州に不法に入国した者もいた。
- サバ州における正規化プログラムでは、労働者のパスポートを領事館が発行する前に、サバ州の入国管理局の承認を得ることが求められている。その後、入国管理局が労働許可証を発行する。パンデミックおよび長期にわたるロックダウン措置により、その処理が遅延し、何千人もの移住労働者の申請に影響を与えた。
- COVID-19パンデミックの期間中、新たな移住労働者の受け入れは2021年末まで保留とされた。そのため、アブラヤシ産業の雇用主たちは深刻な労働力不足に直面していると訴え、政府に対し新規移住労働者の受け入れ許可に関する行政手続きを迅速化するよう要請した。雇用主たちは、新規移住労働者の採用に関する政府の官僚的手続きの遅さを十分に認識している。そうした不確実性を考慮すると、労働者にとって唯一実行可能な選択肢は、再雇用申請が当局に承認されるのを待つことであった。特にパンデミック中は、正規化の手続きが長期化すること、正規化の過程にある労働者が就労を継続することは一般的な慣行となっていた。この段階において、労働者は法的に宙ぶらりんな状態に置かれ、雇用の継続を雇用主の裁量に依存することとなる。雇用主が労働者の雇用・スポンサーシップの継続に消極的である場合、労働者は法的地位を失い、逮捕、拘留、そして出身国への強制送還のリスクにさらされることになる。
- 数十年にわたり、サバ州のアブラヤシ部門における非正規移住労働者の雇用は、解決されないジレンマとなってきた。サバ州政府は、アブラヤシ産業が求める「安価な労働力」への需要に応えるために、再雇用(正規化)プログラムを継続的に活用しているが、その一方で移住労働者は非正規労働者になるリスクを抱え、悪質な第三者の仲介者やブローカーの標的となる危険に晒され続けている。これは、現在の移民ガバナンスにおけるシステミックな失敗である。加えて、この再雇用モデルでは、多くの監視されていない無責任な仲介業者が、移住労働者の調達、雇用手続き、正規化申請の手配に関与しており、この再雇用モデル自体が、労働者を搾取するものである。
労働者の声の抑圧
- ILOは、移住労働者の搾取に対する脆弱性は、公正で効率的かつアクセス可能な苦情解決手段の不在の不在によって悪化すると述べている。たとえ現場レベルの苦情申立てメカニズムが存在していたとしても、雇用主による報復への恐れ、就労許可が雇用主に紐づけられていること、そして言語の壁が、労働者が苦情を申し立てる大きな障害となっている。労働者へのインタビューでは、雇用主に対して問題を提起することへの恐怖や不信感が懸念されるものであることが明らかになった。労働者たちは、信頼できる人物(自分たちのコミュニティリーダーなど)に苦情を申し立てることを好む傾向にある。しかし、このように口頭で苦情を伝える方法では、苦情を記録するシステムが存在しないため、説明責任と透明性が欠如している。苦情を申し立てた労働者は、雇用主との対話や交渉の場からしばしば排除されることがある。
- この数年、労働者の不信感や報復への恐れに対処するために苦情申立てメカニズムを強化することに対して、関心と資源が高まってきた。マレーシアの労働問題を管轄する主務省である人的資源省(MOHR)は、デジタル苦情申立てプラットフォーム「Working for Workers(WfW)」アプリなど、複数の労働者向け苦情申立てチャネルを導入している。しかし、WfWは、苦情申立てを進めるために多くの必須情報を求めるため、移住労働者にとっては複雑すぎる。市民社会組織もまた、代替的かつ独立した苦情申立てメカニズムを提供している。その一つが「Just Good Work」アプリで、WfWアプリケーションよりも使いやすく、苦情申立てを行うために必要最小限の情報しか要求しない。両アプリは雇用主から独立したシステムであり、すべての情報は機密として扱われる。これらは、労働者の不信感や報復への恐れを克服するための建設的な手段である。
- しかし、今回のインタビューによれば、ほとんどの労働者がWfWおよびJust Good Workについて知らなかった。一人は、今後問題が発生した場合に連絡できるインドネシアのNGOを知っていると述べた。パンデミックの間に、インドネシア人労働者が地元コミュニティ、NGO、あるいはインドネシア大使館に対して苦情や問題を申し立てたかどうかを尋ねたところ、そのような申し立てをした者はいなかった。別の労働者は、独立監査人による外部監査の際に頻繁に苦情を述べていたと語った。これらの監査は、MSPOの義務化以降、すべてのアブラヤシ生産者にとって標準となっていた。しかし、この労働者は、パンデミック中には外部監査は一切実施されなかったと述べた。別のインタビューでは、経営陣が管理事務所に苦情記録帳を設置し、労働者の宿泊施設付近に投書箱を設置したと述べた。しかし、パンデミックの最中に出された苦情や要望は雇用主によって完全に無視されており、彼はこれらのメカニズムは効果的ではなく、経営陣は労働者の苦情解決に真剣に取り組んでいないと強調した。このことは、こうした苦情申立てメカニズムの実効性、そして企業が労働者の苦情に対して真摯かつ適切に対応する能力があるかどうかを、批判的に検証する必要性を示している。
結論
- COVID-19パンデミックは、労働者の不安定な状況を明るみに出しただけでなく、一層悪化させた。政府によるロックダウン措置は本来、パンデミックを抑制することを目的としていたが、中小規模のアブラヤシ栽培者の一部の無責任な雇用主は、こうした措置を悪用し、労働権の制限行為(移動の制限や監視の強化、移住労働者の不正規状態の長期化、労働者の声の抑圧など)を常態化・正当化した。その結果、労働者は雇用条件や待遇について交渉するための交渉力を失うだけでなく、外部からの支援や法的救済にアクセスすることさえできなくなった。労働者は、雇用主の裁量的な判断や行動に依存せざるを得ず、雇用主はしばしば、労働者を権利や福祉を受けるに値しない存在と見なす傾向があった。こうした状況は、最終的に労働者を相対的剥奪と不安定状態に置くものである。
- 大規模なアブラヤシ栽培者と比較して、中小規模の栽培者に雇用された移住労働者の不安定性が悪化する主な要因:
- アブラヤシ産業は、短期的で特定作業に特化した柔軟な労働力を必要とする。このため、中小規模の栽培者が移住労働者をフルタイム雇用することはほぼ不可能である。現在の雇用主に紐づけられた就労許可の制度は、すべての規模の雇用者に一律に適用され、臨時的な雇用を認めていない。これにより、中小規模の栽培者は、パンデミック中もアブラヤシ生産の継続性を保つために、無許可の移住労働者を雇用せざるを得なかった。
- 大規模栽培者とは異なり、中小規模栽培者の所有するアブラヤシ農地の区画は散在し、互いに何キロも離れていて、ほとんどが極めて辺鄙な場所に位置し、農園と外部を結ぶ道路網も貧弱である。このことは、労働者が外部者や近隣の町にアクセスするのを妨げるだけでなく、当局による定期的な視察や法執行をも困難にしている。この問題は、パンデミック中に特に顕著であった。
- 大規模栽培者は世論の批判や圧力にさらされているが、中小規模の栽培者にはほとんど注目が集まらず、労働・生活条件の改善に対する市場からの圧力もほとんどない。そのため、これらの栽培者は、現場での労働基準遵守に関して監視の目にさらされる機会が少ない。さらに、特に小規模栽培者においては、現場での遵守状況を監視し保証する管理体制が整備されていないことが一般的である。
- COVID-19の感染拡大以前には、中小規模のアブラヤシ栽培者に雇用された労働者の実態に関する情報はほとんど存在しなかった。マレーシアでは、大手アブラヤシ企業が労働者の不安定性への対応に関してより透明性を高めようと取り組んでいる一方で、中小規模栽培者による抑圧的な操業形態には変化が見られない。これらの労働環境の多くは、パンデミック中に悪化した。中小規模栽培者の操業は、個人の権利、市民的権利および労働権の行使を制限するなど、植民地時代のアブラヤシ事業の運営を続けているように見える。中小規模栽培者の行動が労働基準遵守について無知で、抑圧的かつ加担的である一方で、政府にも労働者の不安定性を悪化させている責任がある。労働者の採用や正規化の手続きにおける官僚的な遅延、および制限的な労働許可制度と相まって、政府自体が移住労働者の権利を制限・管理する手段として雇用主を利用しているとも考えられる。
- 特にマレーシアの中小規模栽培者に関して、透明性と説明責任の強化が重要である。大手アブラヤシ企業は引き続き、世論の注視、市場の圧力、さらには国家による制裁の主要な標的となっている。大手アブラヤシ企業と歩調を合わせるよう促すために、中小規模栽培者に対しても同様の取り組みが必要である。たとえば、これら中小規模栽培者は、自らの労働慣行に関して自主的なデューデリジェンスを行い、その結果を少なくともサプライチェーン上の大手栽培者や買い手と共有し、集団的な改善に取り組むべきである。また、パンデミック下で移住労働者が直面した状況については、早急な政策介入および企業の対応が求められる。これには、正規化プログラムおよび労働者の雇用に関する官僚的手続きを簡素化・再設計する必要性が含まれる。雇用制度は、雇用主に紐ついた許可制度を超えた仕組みへと見直す必要がある。
- 2023年初頭、マレーシア政府は移住労働者の雇用の不安定性に対処するため、いくつかの規制的および行政的な変更を行った。これには、2022年の改正雇用法に基づき、強制労働の禁止および最大労働時間の制限に関する条項の導入が含まれる。加えて、2023年1月には、移住労働者の採用に関する条件の緩和策が導入され、官僚的手続きや採用処理にかかる日数が削減された。しかし、これらの措置は、多くの中小規模の栽培業者が直面している特有の課題、すなわちアドホックな形(例:特定の作業に特化した短期的かつ柔軟な形)で移住労働者を雇用する必要性に直接対応するものではなかった。雇用主と紐ついた許可制度は、多くの中小規模栽培者が非正規移住労働者に依存することを助長しており、そこには搾取や雇用の不安定性といった既知のリスクが伴う。