本レポートは、インドネシアのNGOであるTuK Indonesiaが2023年10月に発表した「Indonesian agro-commodity tycoons Palm oil & pulp & paper tycoons 2023」を翻訳したものです。

はじめに

TuK Indonesiaは、2015年と2019年にインドネシアのパーム油部門を支配するタイクーン(「有力者」)に関する調査報告書を発表した。Profundoによって実施された調査の結果は、この部門におけるタイクーンの支配がいかに強大であるかについて多くの人々の目を開かせた。報告書はタイクーンの支配下にあるランドバンク(開発対象地)の規模と、さまざまな金融機関がタイクーンの支配下の土地の拡大と資金力の強化にどのように関与してきたかを示した。

TuK Indonesiaでは、多くのタイクーンがこれからのインドネシアでのさまざまな選挙(国会、州議会、地方議会議員選挙および大統領選挙)に直接および間接的に関与すると予想しており、したがってこの調査をアップデートすることは時宜に適っていると考えている。

上記の経緯からProfundoはインドネシアのパーム油部門におけるタイクーンの権力に関するこれまでの調査のアップデートを受託した。インドネシアのタイクーンに関する調査の今回の版では、パーム油のタイクーンのほかに紙・パルプ部門のタイクーンを調査対象に加えた。

パーム油のタイクーンの中にはウィジャヤ一族やスカント・タノトのように両方の部門に関与しているケースもある。調査対象企業の選定は、本調査の前版と同様、上場企業の資本構成、収益、インドネシア国内の土地所有の割合、所有者が主にインドネシア人であるかどうかを基準としている。

このアップデートされた調査結果は、TuK Indonesiaが他の組織とも連携して、選挙に関与したタイクーン企業家と政治的腐敗が暴露された人物とのつながりを突き止めるために活用する。この調査結果はまた、政党が推す候補者に関するより有用な情報を公衆に提供し、最終的には公衆が投票権を行使する際により適切な判断を下すのに役立つだろう。

本報告書の構成は以下の通りである: 第1章は調査方法について、第2章はタイクーンが支配するグループの詳細について、第3章はグループの背後にいるタイクーンについて、第4章はグループの所有構造と、関連するタイクーン一族の詳細について、第5章はインドネシアにおけるアブラヤシ栽培用に開発された土地に対するタイクーンの支配の詳細について、第6章はタイクーンが支配するグループの資金調達先の概要について、第7章はパーム油および製紙/パルプ部門のタイクーンの影響力が政策に及ぼす影響について概説している。

1. 調査方法

1.1. タイクーンが支配するパーム油、紙・パルプ企業の選定

2014年の最初の調査では、インドネシアのパーム油部門で事業活動を行っている25の主要なタイクーン支配下の企業グループを選定した。選定は上場企業の資本構成、収益、インドネシア国内の土地所有を基準としている。2019年の時点では、2014年に調査対象に選ばれた企業の中に、その後、他のタイクーンの支配下にあるグループに買収されたり、社名が変更された企業もあった。2014年に選ばれた25のグループのうち24のグループが2018年の調査対象にも含まれたが、そのうちの2つは別の名前で記載されている。また、新たに1つのグループが調査対象に追加された。

インドネシアにおけるタイクーンに関する今回の調査では、パーム油部門のタイクーンのほかに紙・パルプ部門のタイクーンを調査対象に加えた。パーム油部門のタイクーンの中にはウィジャヤ一族やスカント・タノトのように両方の部門に関わっているケースもある。調査対象企業の選定は、本調査の前版と同様、上場企業の資本構成、収益、インドネシア国内の土地所有の割合、所有者が主にインドネシア人であるかどうかを基準としている。

表1は、2018年の調査と今回の調査での調査対象に選ばれたタイクーン支配下の企業を比較したものである。Darmex AgroグループとTPSグループは、いずれもグループを支配しているタイクーンたちが逮捕・投獄されたため、調査対象から除外した。Korindoが除外された主な理由は、分析に含める一貫したデータがなかったことである。Provident Agroは作付け総面積が他の調査対象企業に比べて非常に小さいため除外した。Carson Cumberbatchグループはインドネシアでの事業の規模、総収益、および同グループがタイクーンによって保有されていることから調査対象に追加した。Djarumは大規模な紙・パルプ事業を行っており、タイクーンが所有者であることから調査対象に追加した。Fangiono Agro Plantationはパーム油事業を行っており、タイクーンが所有者であることから調査対象に追加した。同じ理由でTSH Resourcesも追加した。

さらに、前回の調査対象に含まれていた3つのタイクーン支配下のグループ(Harita グループ、Royal Golden Eagleグループ、Sinar Masグループ)については、紙・パルプ事業も調査対象に加えた。

2018年の25グループ変動2023年の25グループ商品分野
Anglo-Eastern Group Anglo-Eastern Groupパーム油
Austindo Group Austindo Groupパーム油
Batu Kawan Group Batu Kawan Groupパーム油
Boon Siew Group Boon Siew Groupパーム油
 新規Carson Cumberbatch Groupパーム油
Darmex Agro Group除外  
 新規Djarum紙・パルプ
DSN Group DSN Groupパーム油
Genting Group Genting Groupパーム油
Korindo Group除外  
 新規Fangiono Agro Plantation (FAP Agri)パーム油
Harita Group Harita Groupパーム油
IOI Group IOI Groupパーム油
Jardine Matheson Group Jardine Matheson Groupパーム油
Kencana Agri Group Kencana Agri Groupパーム油
Musim Mas Group Musim Mas Groupパーム油
Provident Agro除外  
Rajawali Group Rajawali Groupパーム油
Royal Golden Eagle Group Royal Golden Eagle Groupパーム油 & 紙・パルプ
Salim Group Salim Groupパーム油
Sampoerna Group Sampoerna Groupパーム油 & 木材
Sinar Mas Group Sinar Mas Groupパーム油 & 紙・パルプ
Sungai Budi Group Sungai Budi Groupパーム油
Surya Dumai Group Surya Dumai Groupパーム油
Tanjung Lingga Group Tanjung Lingga Groupパーム油
TPS Group除外  
Triputra Group Triputra Groupパーム油
 新規TSH Resourcesパーム油
Wilmar Group Wilmar Groupパーム油

1.2. タイクーンおよびグループの分析

タイクーン支配下の各グループについて、グループの種々の事業活動、所有構造、背後のタイクーンに関する情報を収集した。これらの情報はグループに属している企業の最新の公表されている年次報告書やウェブサイト、企業登記簿、メディアの報道、過去の調査結果などから収集した。

1.3. プランテーション関連の子会社および関連不動産の分析

この調査では、調査対象の企業の年次報告書やウェブサイト、RSPO報告書、およびすでに植林されている土地とそれ以外の土地に関する州の伐採許可地登録簿から情報を収集した。

これらの情報は、可能な限り州別、プランテーション関連子会社別に示している。

タイクーン支配下のグループの関連不動産(すでに植林されている土地とそれ以外の土地)に関するデータと、インドネシア農務省が発表した州別および全国のアブラヤシ植林面積および工業用木材の開発に割り当てられた面積に関する最新のデータを比較している。

1.4. 出資者の分析

それぞれのタイクーンがグループの事業拡大プロセスを促進するために外部資金をどの程度利用しているかを評価するため、本調査では2021年の年次報告書(調査時点で入手可能な最新データ)を用いて上場企業の貸借対照表を分析した。非上場企業2社についても、この貸借対照表に基づく分析を行った。

調査では、事業拡大のために充当できる資本を特定することによって、合計資産がどのように資金調達されたかを分析した。これには株主から提供された資本、少数株主持分(合弁パートナーから提供された資本)、投資に利用可能な長期負債(銀行ローンや社債)が含まれる。

調査対象のタイクーン支配下の企業に融資や引受サービスを提供し、債券や株式に投資している金融機関に関するデータはForests & Financeから入手した。[1] Forests & Financeは金融データベース(Bloomberg、Refinitiv、TradeFinanceAnalytics、IJGlobal)、企業の報告書(年次、中間、四半期)およびその他の刊行物、会社登記簿、メディアやアナリストの報告書を活用して、2013年から2022年(9月)までの期間に当該企業に提供された企業融資と引受与信枠を特定した。調査対象企業の債券および株式への投資はRefinitiv、Thomson EMAXX、Bloomberg、Profundoの年金基金ポートフォリオ開示データベースを通じて、2022年9月時点の最新データによって確認した。

Forests & Finance は、確認された資金調達の金額を基に、そのうちの森林リスク部門に関連するものの割合、および事業が行われているそれぞれの国に関連するものの割合を考慮してこの金額を調整することによって、資金調達の金額のうちの当該企業の森林リスク部門に関連する事業に関わっていると合理的に想定できる割合をより正確に示している。入手可能な財務情報では投資の目的や、当該企業の親企業グループにおける投資または投資受入れの内訳が判明しない場合、当該企業の森林リスク部門の事業活動を親企業グループの全体の事業活動と比較することによって、削減係数を個別に算出している。詳細についてはForests & Financeの財務調査方法を参照のこと。[2]

2. インドネシアにおけるタイクーン支配下のパーム油および製紙/パルプ・グループ

調査対象のタイクーン支配下のグループは2021年にパーム油部門で約1千億米ドル、製紙/パルプ部門で100億米ドルの収益を上げた。

2.1. パーム油グループ

調査対象のタイクーン支配下のパーム油グループは、2021年に約1千億米ドルの収益を上げた(表2を参照)。これらの収益は50億米ドルの利益をもたらした。調査対象の24のパーム油グループは2021年に合計で約1500万トンの粗パーム油(CPO)を生産した。

インドネシアのタイクーン支配下のパーム油持株会社24社のうち9社がジャカルタ、6社がシンガポール、5社がクアラルンプール、1社がロンドン、1社がコロンボの証券取引所に上場している。2社は民間企業である(Royal Golden EagleグループのAsian AgriとMusim Mas)。

グループ子会社上場地2021年の収益(百万ドル)2021年の利益(百万ドル)CPO 生産 (トン)出典
Salim GroupIndofood Agri-Resourcesシンガポール1,379.2689.80498,0003
Royal Golden Eagle GroupAsian Agri非公開n/an/a1,000,0004
IOIIOIクアラルンプール3,534.41401.32607,2005
WilmarWilmarシンガポール65,793.622,335.74 6
Sinar MasGolden Agri Resourcesシンガポール10,182.54575.632,350,0007
Jardine MathesonAstra Agro Lestariジャカルタ1,706.45172.181,473,0178
Anglo-Eastern GroupAnglo-Eastern Groupロンドン433.4282.92473,2009
Austindo GroupAustindo Nusantara Jayaジャカルタ266.7936.95262,68310
Batu Kawan GroupBatu Kawan Groupクアラルンプール1.450.201,053,72911
Carson Cumberbatch GroupCarson Cumberbatch Groupコロンボ8.061.65363,03412
DSN GroupDharma Satya Nusantaraジャカルタ499.8658.82545,00013
Fangiono Agro Plantation (FAP Agri) Fangiono Agro Plantation (FAP Agri) ジャカルタ237.8830.52233,05914
Boon Siew GroupOriental Holdings Berhadクアラルンプール740.99113.53163,67215
Harita GroupBumitama Agriシンガポール859.37147.131,050,00016
Kencana Agri GroupKencana Agriシンガポール128.4517.07149,64617
Musim Mas GroupMusim Mas Group非公開9,914.22580.45843,00018
Rajawali GroupBW Plantationジャカルタ206.16-100.32231,75419
Sampoerna GroupSampoerna Agri Resourcesジャカルタ366.4057.94385,12020
Sungai Budi GroupTunas Baru Lampungジャカルタ1,120.6251.60227,00021
Surya Dumai GroupFirst Resourcesシンガポール1,032.28187.59869,24122
Tanjung Lingga GroupSawit Sumbermas Saranaジャカルタ365.05107.39444,72023
Genting GroupGenting Plantationsクアラルンプール710.16106.73510,00024
Triputra GroupTriputra Agro Persadaジャカルタ440.4885.93850,00025
TSH ResourcesTSH Resourcesクアラルンプール0.080.02253,87426
合計  99,9285,14114,836,949 

2.2. 紙・パルプ・グループ

紙・パルプ事業に関わる3つのタイクーン支配下のグループは年に約100億米ドルの収益を上げている(表3参照)。これらの収益は20億米ドルの利益をもたらした。これらの企業を合わせると約1100万トンのパルプと700万トン以上の紙を生産している。

タイクーン支配下のグループの製紙/パルプ関連子会社のほとんど(7社中5社)が証券取引所に上場していない。2社がジャカルタの証券取引所に上場している。

グループ子会社上場地2021年の収益(百万ドル)2021年の利益(百万ドル)パルプ(トン)紙 (トン)出典
Royal Golden Eagle GroupAsia Pacific Resources International非公開1,058.4397.742,800,0001,150,00027
Sinar MasIndah Kiat Pulp and Paperジャカルタ3,516.59527.953,061,0003,534,00028
Sinar MasTjiwi Kimia Pulp and Paperジャカルタ1,024.46248.83 1,244,00029
Sinar MasLontar Papyrus非公開548.69148.431,051,600 30
Sinar MasOki Mills Pulp and Paper非公開1,536.74449.752,601,700 31
Sinar MasPindo Deli Pulp and Paper Mills非公開1,877.34416.351,052,0001,112,00032
DjarumDjarum非公開n/an/an/an/a 
合計  9,5621,88910,566,3007,040,000 

3. グループを支配するタイクーンたち

タイクーンたちの純資産の合計は2023年現在で800億米ドル以上と推定される。

3.1. パーム油および製紙/パルプ・グループを支配するタイクーンの分析

タイクーン支配下のグループのうち証券取引所に上場しておらず、上場されている子会社もないのは3つのグループだけである。上場企業を分析すると、それらの企業はタイクーンとその一族によって支配されていることがわかる。各企業について1人または複数の支配的なタイクーンが特定された。

タイクーンとその一族は必ずしも過半数の株式を保有しているわけではないが、合わせると最大の株式を保有しており、それによって当該企業の経営を支配することができる。多くの場合、こうした持株は英領バージン諸島などのタックスヘイブンにある持株会社を通じて管理されている。

表4は調査した25のパーム油および製紙/パルプ・グループの支配的所有者であることが判明したタイクーンの概要である。各タイクーンの出身国と、ForbesおよびTattler Asiaによる最近の推定純資産額を示している。これらの推計資産額はパーム油事業だけでなく、タイクーンが支配するすべての事業活動のデータを基にしている。

グループタイクーン出身国純資産(Forbes、百万ドル)出典
DjarumBudi Hartonoインドネシア20,50033
Sinar MasWidjaja familyインドネシア9,70034
Jardine MathesonKeswick Family英国8,68435
Salim GroupAthoni Salimインドネシア8,50036
IOILee Yeow Chor & Yeow Sengマレーシア4,60037
Musim Mas GroupBachtiar Karimインドネシア4,00038
WilmarKuok Khoon Hongシンガポール3,80039
Genting GroupLim Kok Thay & Lim Keong Huiマレーシア2,30040
Wilmar / KPN CorporationMartua Sitoriusインドネシア2,00041
Fangiono Agro Plantation (FAP Agri) Fangiono familyインドネシア1,80042
Sampoerna GroupPutera Sampoernaインドネシア1,80043
Surya Dumai GroupFangiono familyインドネシア1,80044
Rajawali GroupPeter Sondakhインドネシア1,50045
Royal Golden Eagle GroupSukanto Tanotoインドネシア1,40046
Batu Kawan GroupLee Oi Hian & Lee Hau Hianマレーシア1,20047
Harita GroupLim Hariyanto Wijaya Sarwonoインドネシア1,10048
DSN GroupTheodore Permadi Rachmat インドネシア2,00049
 Andrianto Oetomoインドネシアn/a 
 Arini Subiantoインドネシア97550
Triputra GroupTheodore Permadi Rachmatインドネシア2,00051
 Arini Subiantoインドネシア97552
Austindo GroupGeorge Santosa Tahija and Sjakon George Tahijaインドネシア65053
Tanjung Lingga GroupAbdul Rasyidインドネシア60054
Anglo-Eastern GroupLim Siew Kim*マレーシア50055
Boon Siew GroupLoh Kian Chong マレーシア39056
TSH ResourcesAik Pen Tanマレーシア84**57
Kencana Agri GroupHenry Maknawiインドネシア15**58
Carson Cumberbatch GroupSelvanathan familyスリランカn/a59
Sungai Budi GroupWidartoインドネシアn/a 
合計  79,898.45 

注記:

* Lim Siew Kimは2022年に死去した。2023年5月時点で後継者に関する情報は公開されていない。

**この推定額は公開されている資産、特に自身が保有する上場企業における保有株式を基にしている。実際の資産額はもっと大きい。

表4で示すように、調査対象のタイクーンの合計の純資産額は少なくとも約800億米ドルと推定される。3人のタイクーンとその一族については純資産に関する情報は入手できない。他の2人については、入手可能な情報は彼らの公開されている資産に関するものだけである。2021年のインドネシアのGDPは1兆1900億米ドルだった。[60] したがって確認できるこれらのタイクーンの純資産はインドネシアのGDPの約7%だった。

最も多く資産を持つタイクーンはブディ・ハルトノ(Budi Hartono)である。彼の資産の多くはIndonesian Bank Central Asiaに投資されている。それに続くのがウィジャヤ(Widjaja)一族と彼らが支配するシナル・マス帝国である。その次がスコットランドのケズイック(Keswick)一族で、この一族は香港で設立したジャーディン・マセソン(Jardine Matheson)グループを通じて中国や他のアジアの主要国への投資と貿易によって富を築いた。4番目はインドネシアとフィリピンで多くの事業を展開するアンソニー・サリム(Anthoni Salim)である。

これらの25グループは27人のタイクーンとその一族によって支配されている。このうち女性は2人で、トリプトラ(Triputra)・グループとDSNグループの両方を保有するアリニ・スビアント(Arini Subianto)と、アングロ・イースター(Anglo-Easter)グループを所有するLim Siew Kim(故人)である。他のタイクーンはすべて男性である。しかし、一族の中の女性がグループの運営で重要な役割を果たしていることも多い。

27人のタイクーンのうち18人がインドネシア人、6人がマレーシア人、1人がシンガポール人(ウィルマ―・グループのKuok Khoon Hong)、1人が英国人(ジャーディン・マセソン・グループのケズウィック一族)、1人がスリランカ人(カーソン・カンバーバッチ・グループのセルバナタン一族)である。

4. グループの所有構造とタイクーンのプロフィール

4.1. アングロ・イースタン・グループ(Anglo-Eastern Group)

Anglo-Eastern Plantations Plc (AEP) は1985年に設立され、ロンドン証券取引所に上場された。同社はインドネシア・北スマトラで英国を本拠地とするプランテーション企業が所有していたプランテーション用地を買収・開発するために設立された。

AEPの主な事業は、インドネシアとマレーシアにおける系列企業を通じたパーム油とゴムの生産および加工である。[61]

1993年にマレーシアのLim一族が所有し、香港で法人登記している非公開企業Genton InternationalがAnglo-Eastern Plantations社の株式の過半数(50%以上)を取得した。[62]

図1 アングロ・イースタン・グループの所有構造

出典: Anglo Eastern Plantations (2022, May), 2021 Annual Report, p. 56, 128.

Lim Siew Kimと夫のChan Teik Huatが死去するまで、この2人が投資会社Genton International(香港)を通じてAnglo-Eastern Plantationsを支配していた。[63] 

Lim Siew Kimはマレーシアの実業家でGentingグループの創業者であるLim Goh Tong(故人)の娘である。[64] 

Lim Siew Kimは2022年に死去した。2023年5月時点で後継者に関する情報は公開されていない。Anglo-Eastern Plantationsの2022年の年次報告書には、「Genton International Limitedの最終的な受益株主の決定はLim夫人の不動産の帰属に委ねられており、現在、遺言検認申請の手続き中である」と記載されている。[65] 

4.2. オースティンド・グループ(Austindo Group)

PT Austindo Nusantara Jaya (ANJ)社は1985年にPT Austindo Teguh Jayaの名称でインドネシアの非公開企業として設立され、タヒジャ(Tahija)一族が100%所有している。同社は1998年に名称をAustindo Nusantara Jayaに変更した。

ANJは2012年までは金融サービス、ヘルスケア、アグリビジネス、エネルギー、その他(タバコ、貿易、鉱業など)の5つの事業分野に関与していた。同社は2012年初めに事業再編を行い、食品部門(アブラヤシとサゴヤシの栽培を含む)と再生可能エネルギー部門に集中することを決定した。

同社は2013年5月にインドネシア証券取引所に正式に上場したが、支配株主はタヒジャ一族のままである。[66]

図2 オースティンド・グループの所有構造

出典: Austindo Nusantara Jaya (2022, May), 2021 Annual Report, p. 66.

オースティンド・グループは、タイクーンだったユリウス・タヒジャ(故人)の2人の息子、ジョージ・タヒジャとスジャコン・タヒジャの兄弟の支配下にある:

● ジョージ・サントサ・タヒジャはANJ設立以来、2012年12月まで代表取締役社長を務めた。彼はその後、ANJのコミッショナーを務めている。インドネシアのTrisakti大学で機械工学の学士号を取得し、米国Darden School, University of VirginiaでMBAを取得。

● スジャコン・ジョージ・タヒジャは、1985年のANJグループ設立以来、ANJのコミッショナーを務めている。彼はインドネシアの全国的な眼科クリニックKlinik Mata Nusantaraの創設者および会長であるため、ANJグループの事業運営に深くは関与していない。[67]

4.3. バトゥ・カワン・グループ(Batu Kawan Group)

バトゥ・カワン・グループはマレーシアの多角的コングロマリットで、Lee Oi HianとLee Hau Hianの支配下にあり、マレーシア証券取引所に上場している。このグループの主要持株会社であるBatu Kawan Berhad は1965 年にLee Loy Seng によって設立され、1971 年にグループの事業再編計画に基づいて、Batu Kawan Rubber and Coconuts Plantations Ltd の資産と負債を引き継ぎ、プランテーション企業として事業を開始した。

バトゥ・カワン・グループは中核事業であるプランテーション事業から、長年にわたって多角化を進め、今では基礎的な化学製品、漂白土、ラテックス試験用手袋、ラバーウッド・パーケットを製造する子会社の設立および投資、さらには株式仲介などに事業を拡大している。最近では、2015年に不動産開発にも進出した。[68]

バトゥ・カワン・グループは1992年に、プランテーション関連資産のすべてをKuala Lumpur Kepong Berhadに株式と引き換えに売却した。現在、バトゥ・カワン・グループはKuala Lumpur Kepong (KLK)の47%の株式を所有している。KLKは1906年に英国の商人により「Kuala Lumpur Rubber Co. Ltd 」(KLRC)の名称で設立された。KLRCは1907年にロンドン証券取引所に上場された。KLKは1972年にマレーシア法人として登録され、1974年にブルサ・マレーシアに上場された。同社は現在、イポーに本社を置き、Lee Loy Sengの息子であるLee Oi HianとLee Hau Hianが経営を管理している。[69]

KLKの主な事業は、マレーシアの半島部とサバ州、およびインドネシアで保有している自社農園でのパーム油製品および天然ゴムの生産と加工である。同社はまた、アブラヤシの搾油・精製、油脂化学製品の製造、不動産開発、持株などにも関与している。[70]

図3 バトゥ・カワン・グループの所有構造

出典: Batu Kawan (2021, December), 2021 Annual Report, p. 92, 170, 205.

バトゥ・カワン・グループはLee Oi HianとLee Hau Hianの兄弟の支配下にある:

● Lee Oi Hian(Tan Sri Dato’ Seri Lee Oi Hian)は1985年からKLKのCEOを務めている。彼はそれ以前にはMalaysian Palm Oil Council会長だった。彼は1974年にKLKに役員として入社し、1985年に取締役に就任した。1993年にグループの会長兼CEOに任命され、2008年に会長を退任するまでこの役職を保持し、現在もグループの専務取締役兼CEOを務めている。彼は、Batu Kawan Berhadの会長、およびKLKの専務取締役である。

● Lee Hau Hian(Dato’ Lee Hau Hian)は1993年に取締役に就任した。彼はBatu Kawan Berhadの代表取締役であり、Synthomer plcの取締役でもある。また、Perak Chinese Maternity Associationの社長であり、Yayasan De La Salle、Tan Sri Lee Loy Seng Foundation、およびYayasan KLKの受託人でもある。彼はKLKのCEOであるLee Oi Hianの弟である。[71]

4.4. ブン・シュー・グループ(Boon Siew Group)

このグループを設立した(タンスリ)ロー・ブン・シューは、存命中、マレーシア・ペナン州で最上位の資産家だった。彼は「ミスター・ホンダ」とも呼ばれていた。彼は1991年に死去した。ブン・シュー・グループの事業は1963年にペナン(マレーシア)で設立された投資持株会社、Oriental Holdings Berhadの下に集約されている。同社は1964年2月にマレーシア証券取引所に上場した。 

Oriental Holdings Berhadは主に自動車事業に関与しているが、そのほかにプラスチック製品、ホテル、金融サービス、プランテーション、投資用不動産、建築資材、ヘルスケアの部門でも事業を展開している。グループの子会社はマレーシア、シンガポール、インドネシア、ブルネイ、オーストラリア、ニュージーランド、英国、モーリシャス、タイ、中国、ベトナムで事業を行っている。[72]

現在、Oriental Holdingsは、Loh Boon Siewの孫であるLoh Kian Chongが経営を管理している。ブン・シュー・グループは1965年にマレーシアで同グループの最初のプランテーション企業を買収して、アブラヤシ・プランテーション事業に進出した。その後、1994年にインドネシアのバンカ島での20,000ヘクタールのプランテーション開発のための事業許可を取得し、同国のプランテーション開発へと事業の多角化を進めた。2021年末現在、グループのプランテーション部門はインドネシアで8つのアブラヤシ・プランテーションと4つのパーム油工場を管理している。[73]

図4 ブン・シュー・グループの所有構造

出典:Oriental Holdings Berhad (2022, April), Annual Report 2021, 

p. 237.

Datuk Loh Kian Chongはグループの創始者であるブン・シューの孫である。オーストラリアのRoyal Melbourne Institute of Technology (RMIT)で不動産ビジネスの学士号を取得。現在、Oriental Holdings Berhadの会長を務めている。また、Dato’ Seri Lim Su Tong(叔父)と共同で、グループの不動産投資・開発、建築資材製品の取引、プランテーションへの投資を担当している。

ほかにブン・シュー一族の何人かがOriental Holdings Berhadの取締役を務めている。

4.5. カーソン・カンバーバッチ・グループ(Carson Cumberbatch Group)

カーソン・カンバーバッチ・グループCarson Cumberbatchはスリランカに本社を置く持株会社で、支配的所有者はセルバナタン一族である。このグループは1947年に2つの企業の合併によって設立された。1860年に R.B. Carson が設立した Carson and Company と、1884年に Henry Cumberbatch が設立した Cumberbatch and Company である。[74]

同グループは100年以上にわたってさまざまな分野に投資してきた。現在ではさまざまな事業を統合したグループとして活動している。主な事業はプランテーション、油脂、飲料、投資持株、不動産、レジャーである。同グループの2022年の収入の多くの部分はアブラヤシ・プランテーション部門と油脂部門から得ている(64%)。[75] 地理的にはスリランカ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、モーリシャス、インドにおける事業から収益を得ている。[76]

カーソン・カンバーバッチはスリランカ企業Bukit Darahの支配下にあるが、独自にスリランカのコロンボ証券取引所に上場している。[77]

図5 カーソン・カンバーバッチ・グループの所有構造

<図>

出典:Carson Cumberbatch (2022, July), Annual Report 2021/22, p. 74, 92, 93, 182, 183, 184; Verite Research (n.d.), “Selvanathan Family”, online: http://sri-lanka.mom-gmr.org/en/owners/individual-owners/detail/owner/owner/show/selvanathan-family/, viewed in April 2023 ; Bukit Darah (2022, July), Annual Rpoert 2021/22, p. 73 ; Good Hope Asia Holdings (2022, July), Financial Statements Year ended 31 March 2022, p. 27.

このグループはHari SelvanathanとMano Selvanathanの兄弟が管理し、多数株式を保有している:

● Hari SelvanathanはBukit Darah PLCの会長とCarson Cumberbatch PLCの副会長を兼務している。このほかにも彼はグループ傘下のいくつかの子会社の取締役を務めている。彼は商学士号を取得している。

●Mano SelvanathanはSri Krishna Corporation (Private)LimitedとSelinsing PLCの会長である。グループ傘下のスリランカ、インドネシア、マレーシア、シンガポールの企業の大部分の取締役を務めている。彼は商学士号を取得している。[78]

この2人以外にもセルバナタン一族の何人かがグループの経営管理に関与している。

● Sharada Selvanathanは2019年3月からCarson Cumberbatch PLCの取締役を務めている。Sharadaは同社のアブラヤシ事業関連の子会社である Goodhope Asia Holdings Ltd.の人事部門と経営戦略部門を担当している。英国のUniversity of Warwickで経済学修士号、スイスのIMDでMBAを取得。

● Krishna SelvanathanはCarsons Management Services (Private) Limitedの取締役であり、Guardian Fund Management LimitedのCEO、およびCeylon Guardianグループ内の他の投資関連企業の取締役を兼務している。彼はまた、Lion Brewery (Ceylon) PLCおよびPegasus Hotels of Ceylon PLCの取締役も兼務している。英国のUniversity of Kentで会計・財務および経営管理の学士号を取得。

●Sudar Selvanathanは2019年にCarson Cumberbatchに入社し、グループの飲料事業を担当している。それ以前は、JNE Partners LLPのパートナー、MSD Capitalの投資チームの上級メンバーとして、株式および不良債権への投資を担当していた。彼は2000年から2006年まで、Lone Star FundsおよびLehman Brothersでさまざまな職務を歴任した。[79]

最後に、Carson Cumberbatch社の専務取締役であるSatish SelvanathanもCarson Cumberbatch社の直接の株主であり、0.36%の株式を保有している。[80]

4.6. ジャルム(Djarum)

Djarum社はインドネシアのクレテック(クローブの香料入りタバコ)製造企業であり、1951年に中国人実業家Oei Wie Gwanによってジャワ島中部で設立された。Oei Wie Gwan が1963年に死去した後、彼の2人の息子Robert Budi Hartono(1941年生まれ)とMichael Bambang Hartono(1939年生まれ)が同社を引き継いだ。[81]

1997-1998年のアジア経済危機の中でサリム一族(4.16項を参照)がBank Central Asiaの経営権を失った時、Djarum社はBCAを買収したコンソーシアムに参加した。この投資がHartono兄弟の資産形成に大きく貢献した。[82]

Djarum社は現在、Robert Budi Hartonoの息子、Victor Hartonoが経営管理している。[83]

図6 ジャルムの所有構造

出典:Orbis (n.d.), Djarum: Corporate Onwership, p. 1

4.7. DSNグループとトリプトラ・グループ(Triputra Group)

DSNグループとトリプトラ(Triputra)グループは受益所有者が同じ(ラフマット一族およびスビアント一族)であるため、まとめて記述する。

● DSNグループ

DSNグループは1980年9月に持株会社PT Dharma Satya Nusantaraを通じてインドネシアで設立された。このグループは、インドネシアのラフマット、スビアント、ウトモ、リアナ・サリム・リムの4つの家族が所有する合弁事業である。グループはこの合弁事業を通じてSwakarsa SinarsentosaとAgro Maju Raya(Amara)の2つの大規模プランテーションを取得した。[84]

DSNグループは森林伐採と木材製品の製造企業として事業を開始した。グループは1990年代後半に事業を多角化し、パーム油事業のための開発用地を取得した。2001年にアブラヤシ栽培を開始し、直後の2002年にはCPOとPKの商業生産を開始した。グループは1997年に子会社としてPT Dharma Agrotama Nusantara (DAN)とPT Dharma Intisawit Nusantara (DIN)を設立し、東カリマンタン州東クタイ県に最初のアブラヤシ農園を開設し、その後2001年にはPT Swakarsa Sinarsentosa (SWA)を買収した。[85] 

2021年末時点でDSNは15のプランテーションを管理しており、合計の栽培面積は112,600ヘクタールである。また、10のパーム油工場および1つの穀粒粉砕工場を管理している。[86]

PT Dharma Satya Nusantaraは2013年6月にIPOを実施し、インドネシア証券取引所に上場している。

● トリプトラ・グループ

トリプトラ・グループはインドネシアでパーム油・ゴム、製造業、石炭採掘、貿易・サービスの4つの部門における事業を展開している。このグループは1998年にAstraグループの元CEOであるTheodore Rachmatによって設立された。

トリプトラ・グループのアブラヤシとゴムのプランテーションはTriputra Agro Persadaが管理し、ゴム製品の製造はKirana Megataraグループが管理・支配している。PT Kirana Megataraはインドネシア最大の加工ゴム製造企業であると考えられている。Kirana MegataraグループはTheodore RachmatとBenny SubiantoがそれぞれPT Triputra Investindo AryaとPT Persada Capital Investamaを通じて共同所有している。[87]

Triputra Agro Persadaは長年にわたり証券取引所への上場を計画していたが(2016年または2017年から[88])、2021年4月に上場した。[89]

図7 DSNグループの所有構造

出典:Dharma Satya Nusantara (2022, March), Annual Report 2021, p. 18.

図8 トリプトラ・グループの所有構造

出典:Triputra Agro Persada (2022, April),  Annual report 2021: Driving sustainable and inclusive growth, p. 102 ; Market Screener (2021, September), “PT Triputra Agro Persada announced that it has received $200 million in funding from Government of Singapore Investment Corporation Pte Ltd., Northstar Pacific Partners Ltd, and GIC Special Investments Pte. Ltd.”, online: https://www.marketscreener.com/quote/stock/PT-TRIPUTRA-AGRO-PERSADA-121299739/news/PT-Triputra-Agro-Persada-announced-that-it-has-received-200-million-in-funding-from-Government-of-S-39269565/, visited in June 2023.

● ラフマット一族

Theodore Permadi Rachmat (Oei Giok Eng、79歳)はラフマット一族のリーダーである。

彼はBandung Institute of Technology(ITB)で機械工学の学位を取得した後、1968年に重機メーカーの営業スタッフとして職歴をスタートさせた。彼は長年、叔父のWilliam Soeryadjayaが共同設立した Astra Internationalに勤務した。[90] 

● ウトモ一族

Andrianto Oetomo(50歳)は2016年からDSNの取締役社長を務めている。彼とその家族(Arianto Oetomo)はDSNの直接の株主であり、それぞれ5.43%の株式を保有している。[91] 

Adrianto Oetomoはまた、PT Krishna Kapital Investama、PT Multi Foresta Investama、およびPT Reksa Cipta Investamaの取締役である。

彼は2012年にRotterdam School of Management = Erasmus Graduate School of Managementで経営管理学とビジネス情報学の修士号(MBAとMBI)を取得しているほか、1996年にParahyangan Catholic Universityで土木工学学士号を取得している。

George Oetomo(49歳)は2020年にTriputra Agro Persadaの取締役に就任。彼はまた、0.15%の株式を保有する株主でもある。

(p19) 

彼は1994年に米国ニューヨーク州トロイのRensselaer Polytechnic Instituteで工学学士号、1996年に同校で経営管理学修士号(財務および管理情報システム)を取得している。

● スビアント一族

Arini Subianto(Ninin Subianto、52歳)は、タイクーンのBenny Subianto(故人)の長女である。Benny Subiantoが2017年1月に死去した時、Arini Subiantoは彼が保有する資産額数百万ドルの企業を引き継いだ。

彼女は現在、一族の持株会社であるPersada Capital Investamaの取締役社長を務めている。彼女は木材加工製品やパーム油からゴム加工機や石炭まで、Persadaのあらゆる投資を管理している。

Persada のポートフォリオには、Benny が営業スタッフとして職歴をスタートさせたAstra International の少数株式や、石炭大手 Adaro Energy の株式も含まれている。

Arini SubiantoはニューヨークのParsons School of Designで美術学士号(ファッション・デザイン)を取得し(1994年)、ニューヨークのFordham University Graduate School of Business Administrationで経営管理学修士号を取得している(1998年)。[92]

4.8 Fangiono Agro Plantation (FAP Agri) とFirst Resources

Fangiono Agro Plantation (FAP Agri) とFirst Resourcesは受益所有者が同じ(ファンギオノ一族)であるため、まとめて記述する。

● Fangiono Agro Plantation

Fangiono Agro Plantation(FAP Agri)は1994年に北カリマンタン州(当時は東カリマンタン州)で事業を開始した。同社はMartias Fangionoが率いるファンギオノ一族によって設立された。2007年の汚職スキャンダルの後、彼はFAP AgriおよびFirst Resourceから離れ、彼の息子たちと娘たちが後を継いだ。

このグループの報告書によると、2021年にこのグループが保有するプランテーションの面積は合計で11万ヘクタールを超えている。FAP Agriの事業は、北カリマンタン、東カリマンタンおよびリアウ州に広がっており、9つの企業、毎時285トン以上の総生産能力を持つ5つのパーム油製造工場、1つの穀粒粉砕工場を含んでいる。[93]

FAP Agriは2020年にインドネシアの証券取引所に上場したが、ファンギオノ一族は依然として多数株主である。

● First Resources

First Resourcesは1992年に設立され、2007年にシンガポール証券取引所に上場した。同社はシンガポールで法人登録され、主にアブラヤシの栽培、果房の収穫、収穫した果房の粉砕と粗パーム油およびパーム穀粒への加工に関与している。[94] 

2021年時点で同社は保有するプランテーション関連不動産を21万2208ヘクタール以上へと急拡大しており、インドネシア国内で18のパーム油搾油工場と2つの精製工場を管理している。[95] 

図9 Fangiono Agro Plantation (FAP Agri)とFirst Resourcesの所有構造

出典:Fangiono Agro Plantation (2022, May), Annual Report 2021, p. 51 ; First Resources (2022, March), Annual Report 2021, p. 144 ; Forest Peoples Programme (2021, February), First Resources: Hiding in the shadows?, p. 6.

● Matthew Fangiono is a cousin of the siblings listed above. He is a shareholder of FAP Agri via his stake in Fangionoperkasa Sejati.96

ファンギオノ一族の何人かがFAP AgriおよびFirst Resourcesの経営に関与しているまたは株主となっている(もしくはその両方):

● Wirastuty Fangiono 

Wirastuty FangionoはMartias Fangionoの長女である。

彼女はPrinsep ManagementとFangionoperkasa Sejatiの株式を通じてFAP Agriの筆頭株主となっている。また、Eight Capitalの株式を通じてFirst Resourcesの株主にもなっている。

● Ciliandra Fangiono 

Ciliandra FangionoはMartias Fangionoの長男である。

彼はFirst ResourcesのCEOである。2007年にFirst Resourcesの取締役に就任し、2021年に取締役に再選された。このグループに参加する前はシンガポールのMerrill Lynchの投資銀行部門に勤務していた。

彼は英国Cambridge Universityで学士号と修士号(経済学)を取得している。

彼はまた、Eight Capitalの株式を通じてFirst Resourcesの株主になっている。

●Sigih Fangiono(Fang Zhixiang)。

Sigih FangionoはMartias Fangionoの次男である。

彼はFirst Resourcesの副CEOである。2014年にFirst Resourcesの取締役に就任し、2020年に取締役に再選された。彼は2002年にFirst Resourcesに入社し、2007年から副CEOを務めている。その前はPT Surya Dumai Industri Tbkで製造次長として勤務していた。

(p21)

彼はカナダ・トロントのBronte Collegeを卒業している。

彼はまた、Eight Capitalの株式を通じてFirst Resourcesの株主になっている。

● Wirasneny FangionoはMartias Fangionoの次女である。彼女はEight Capitalの株式を通じてFirst Resourcesの株主になっている。

● Ciliandrew FangionoはMartias Fangionoの三男である。彼はEight Capitalの株式を通じてFirst Resourcesの株主になっている。

●Wirashery Fangiono はMartias Fangionoの三女である。彼女はEight Capitalの株式を通じてFirst Resourcesの株主になっている。

●Matthew Fangionoは上記の者の従兄弟である。彼はFangionoperkasa Sejatiの株式を通じてFAP Agriの株主となっている。[96]

4.9. ゲンティン・グループ(Genting Group)

ゲンティン・グループはマレーシアのコングロマリットで、レジャーとホスピタリティ、アブラヤシ・プランテーション、発電、石油・ガス、不動産開発、ライフ・サイエンス、バイオテクノロジーなど事業を展開している。

このグループは1965年にTan Sri (Dr) Lim Goh Tongによって設立され、Tan Sri Lim Kokが会長兼最高経営責任者となった。本部はマレーシアのクアラルンプールにある。同グループは強い国際的プレゼンスを確立しており、マレーシア、シンガポール、インドネシア、インド、中国、米国、バハマ、英国、エジプトで事業を展開している。[97]

企業の設立は1968年7月であり、当初はGenting Highlands Hotel Sdn Bhdという名称でマレーシアのゲンティン・ハイランドのホテルとカジノを運営し、総合観光施設を開発することを目的としていた。1970年7月の株式公開後、社名をGenting Highlands Hotel Berhadに変更した。

グループは1980年にGenting Berhadを通じてパーム油生産に参入し、Rubber Trustグループを買収してGenting Plantations Berhadを設立した。[98] Genting PlantationsはマレーシアのGenting Bhdが55.4%を保有する子会社である。[99] Genting Plantationsは、アブラヤシ・プランテーション、搾油、関連製品の製造、不動産開発、バイオテクノロジーの分野で事業を展開している。[100]

図10 ゲンティン・グループの所有構造

出典:Genting Group (2022, April), Annual Report 2021, p. 224 ; Genting Plantations (2022, April), Annual Report 2021, p. 168.

Lim 一族の下記の2人がゲンティン・グループの経営に関与している。

● Lim Kok Thay

Lim Kok Thay(71歳)はゲンティン・グループの創業者であるLim Goh Tong(故人)の次男である。University of Londonで土木工学の理学士号を取得。1979年にHarvard Business School, Harvard Universityの経営能力開発プログラムに参加。

Lim Kok ThayはGenting Berhadの会長兼最高経営責任者である。

彼は1977年にGenting Plantationsの会長兼最高経営責任者に任命されたが、2019年には最高経営責任者を退任し、副会長兼常務取締役に就任した。[101]

● Lim Keong Hui

Lim Keong Hui(38歳)は Lim Kok Thayの長男である。

彼は英国のQueen Mary University of Londonで(名誉)理学士号(コンピューター科学)、Regent’s Business School Londonで国際マーケティング管理の修士号を取得している。

彼は2019年からGenting Berhadの副最高経営責任者兼常務取締役を努めている。また、Genting Plantationsの非常勤取締役でもある。[102]

4.10. ハリタ・グループ(Harita Group)とIOI

ハリタ・グループとIOIは受益所有者が同じ(リー一族)であるため、まとめて記述する。

● ハリタ・グループ

ハリタ・グループはLim Hariyanto Wijaya Sarwonoがインドネシアで設立した。このグループは当初、木材取引事業に関与し、1983年に合板製造事業に進出した。1990年代にハリタ・グループは、英国・オーストラリア資本の多国籍鉱山企業Rio Tinto Plcとの合弁会社の設立を通じて、ケリアン(東カリマンタン州)での金生産をはじめとする鉱業に投資した。グループは1999年に傘下の合板製造企業PT Tirta Mahakam Resourcesをインドネシア証券取引所に上場した。[103]

ハリタ・グループはマレーシアのIOIグループと共同で、主に傘下の上場会社Bumitama Agri Ltd.を通じてインドネシアのプランテーションを所有している。[104] 

Lim Hariyantoは1996年にパーム油事業に参入し、ハリタ・グループを通じて中部カリマンタン州で17,500ヘクタールの開発用地を購入し、2年後に植林を開始した。彼は1996年にBumitama Agri社を設立し、同社は2012年4月にシンガポール証券取引所に上場された。[105]

Bumitama Agriの事業はアップストリームのアブラヤシの栽培、収穫と、アブラヤシ果房のパーム油とパーム穀粒への加工から成る。CPOおよびPK製品は主にインドネシア国内の搾油所に販売される。Bumitama Agriはインドネシアの3つの州(中部カリマンタン、西カリマンタン、リアウ)で事業を展開している。[106]

● IOI

IOIグループは世界最大の垂直統合されたパーム油製造企業の1つである。グループのパーム油事業はアップストリームのプランテーション事業と、そこからの原材料をベースとしてダウンストリームの製造事業で構成されている。[107]

IOIは1969年にTan Sri Dato’ Lee Shin Chengによって、Industrial Oxygen Incorporated Sdn Bhdとして設立された。同社は1980年7月にクアラルンプール証券取引所に上場された。1995年に同社は多角的な事業活動と投資ポートフォリオを反映させるため、正式にIOI Corporation Berhadと社名変更した。[108] 同社の主な事業はIOI Corporation Berhad(アップストリームとダウンストリームのパーム油事業)とIOI Properties Group Berhad(不動産事業)によって遂行されている。

この2つの事業部門はマレーシア証券取引所に独立した事業体として上場している。[109]

IOI Corporationは主にアブラヤシ・プランテーションとパーム油製造の事業を展開している。同社のプランテーションの大半はマレーシアにあるが、2007年以降、ハリタ・グループとの2つの合弁事業を通じてインドネシアでも開発用地の保有を拡大している。[110]  IOIはまた、Bumitama Agriの32.00%の株式を保有している。現在IOIはマレーシアとインドネシアで96の不動産、15のパーム油工場、4つの研究開発(R&D)センターを管理している。[111]

図11 ハリタ・グループとIOIグループの所有構造

出典:Bumitama Agri (2022, March), Annual Report 2021, p. 133 ; Tirta Mahakam Resources (2022, May), Annual Report 2021, p. 5 ; IOI (2022, September), Financial Report 2021, p. 255.

Lim Hariyanto Wijaya Sarwono(94歳)はハリタ・グループの設立者である。現在は彼の子息たちがBumitama Agriを管理している。

● Lim Gunawan Hariyanto

Lim Gunawan HariyantoはBumitama Agriの会長兼CEOである。

彼の職歴の最初は1984年にPT Tirta Mahakam Resources Tbkの副社長取締役に就任したことである。ハリタ・グループに加わったのは1997年に同グループ傘下の子会社であるPT Karya Makmur Bahagiaの取締役としてである。

彼は1981年に米国のUniversity of Southern California南カリフォルニア大学を卒業、経営管理学の学士号を取得している。

● Lim Christina Hariyanto

Lim Christina HariyantoはBumitama Agriの専務取締役である。彼女は2012年に同社に投資関係の責任者として入社した。彼女の職歴の最初はNomura Securitiesでの投資アナリストである。彼女は2004年から2009年までインドネシア証券取引所懲罰委員会の委員を務めた。このほかに彼女は現在、Harita Kencana Sekuritasの代表コミッショナー、Bumitama Foundationの顧問などの役職を兼務している。

1990年に米国のUniversity of Southern California南カリフォルニア大学を卒業、経営管理学士号を取得している。

● Lim Gunardi Hariyanto

Lim Gunardi Hariyanto はHarita Jayarayaの取締役であり、Tirta Mahkam Resourcesの代表コミッショナーである。

彼はロサンゼルスのLoyola Marymount Universityを卒業した。[112]

Tan Sri Dato’Lee Shin Cheng (“Lee Shin Cheng”)は中国系マレーシア人で、パーム油事業に積極的に関与した。彼は2019年6月に80歳で死去するまでIOI CorpとIOI Propertiesの取締役会長だった。

彼は妻、6人の子、12人の孫を残した。彼の2人の息子がIOIグループの経営に深く関与している。4人の娘たちもグループの役職に就いているが、あまり目立った役割はない。

● Lee Yeow Chor 

Lee Yeow Chor(56歳)はLee Shin Chengの長男である。彼は、IOIグループの代表取締役兼CEOである。

彼はまたIOI Properties GroupおよびBumitama Agri Ltdの非常勤取締役、IOI Oleochemical Industries、Unico-Desa PlantationsおよびDynamic Plantationsの取締役を兼務している。ロンドンのKing’s Collegeを卒業後、London School of Economicsで修士(財務および会計)を取得している。[113]

● Lee Yeow Seng

Lee Yeow Seng(44歳)はLee Shin Chengの次男である。彼はIOIの非常勤取締役である。

彼はロンドンのKing’s Collegeを卒業し、インナー・テンプルのBar of England & Walesから法廷弁護士の資格を取得している。彼はまた、IOI Propertiesの専務取締役、Resort Villa Gold CourseとProperty Villageの取締役を兼務している。[114]

4.11. ジャーディン・マセソン(Jardine Matheson)

ジャーディン・マセソン・グループは1832年に中国で貿易会社として設立された。現在、このグループは主にアジアで事業を展開しているコングロマリットである。関与している事業は自動車、不動産、エンジニアリング、重機、採掘・建設、小売・レストラン、金融サービス、ホテルなどである。

グループ傘下の企業には、Jardine Pacific、Jardine Motors、Hongkong Land、DFI Retail(旧称、Dairy Farm)、Mandarin Oriental、Jardine Cycle & Carriage、Astraがある。[115]

グループの主要投資持株会社であるJardine Matheson Holdings Limitedはバミューダで法人登録しており、ロンドン証券取引所に上場、バミューダとシンガポールに副次上場している。Jardine Matheson Limitedは香港を本拠地とし、グループ傘下企業に経営管理サービスを提供している。[116] 

アブラヤシ事業部門に関して、ジャーディン・マセソン・グループはJardine Matheson Holdings LimitedとJardine Strategic Limitedを通じてAstra Agro Lestariの最終的な親会社となっており、Astra Agro LestariはInternational Tbkの子会社である。

PT Astra Agro Lestari Tbkは1988年に設立され、ジャカルタに本社を置き、インドネシアでアブラヤシおよびゴムのプランテーション事業に関与している。同社はインドネシア証券取引所に上場している。支配株主はインドネシアの自動車製造会社PT Astra Internationalで、発行済み株式の79.68%を所有している。[117]

スコットランド出身のケズウィック一族は1855年以降、極東に王朝を築き、特にコングロマリットJardine Mathesonを築いてきた。[118]

ケズウィック一族はJardine Matheson Holdingsの株式の過半数を所有している。この直接保有に続いて、Jardine Matheson Holdingsの一部の取締役は1947 Trust社を通じて同社の株式を保有している。1947 Trust社はJardine Matheson Holdingsの株式の3.6%を所有している。[119] これらの株主の実際の持分はもっと大きい。というのはJardine Matheson Holdingsの子会社の1つで、バミューダに本社を置くJardine Strategic HoldingsがJardine Matheson Holdingsの株式の60%近くを所有しているからである。この構成の結果として、ケズウィック一族はJardine Matheson Holdingsの株式の20%未満しか保有していないが、同社の支配株主となっている。また、このような上場・非上場企業のつながりを通じて、ケズウィック一族はAstra Agro Lestariの株式の79.68%を保有している。

図12 ジャーディン・マセソン(Jardine Matheson)の所有構造

出典: Astra Agro Lestari (2022, March), 2021 Annual Report, p. 58 ; Astra International (2022, March), 2021 Annual Report, p. 61 ; Jardine Cycle & Carriage (2022, March), Annual Report 2021, p. 168, 169.

2021年現在、このグループの12人の取締役のうち3人がこの一族の成員である。[120]

● Ben Keswick

Ben Keswick(50歳)はHenry Keswickが退職した2019年1月以降、Jardine Mathesonの取締役会長を務めている。

彼は1998年にJardine Mathesonグループに入社して以来、Jardine Pacificの財務担当取締役、CEO(2003-2007年)、Jardine Cycle & Carriageグループの代表取締役(2012年まで)などの役職を歴任した。

彼はDairy Farm、Hong Kong Land、Mandarin Oriental、Jardine Cycle & Carriageの会長でもある。また、Astraのコミッショナーも兼務している。

彼はINSEADでMBAを取得している。[121]

● Adam Keswick

Adam Keswick(50歳)は2001年にJardine Mathesonグループに入社し、2007年に取締役に任命された。

彼はまた、Matheson & Coの会長、Dairy Farm、Hong Kong Land、およびMandarin Orientalの取締役を兼務している。

彼はJardine Mathesonグループ以外では、Ferrari、Schindler、Yabuli China Entrepreneursの取締役、およびRothschild & Coの監督委員会副議長である。[122]

● Percy Weatherall

Percy Weatherall(65歳)は1976年にJardine Mathesonグループに入社し、1999年に取締役に就任した。

彼は、Matheson & Coの取締役でもある。[123]

4.12 クンチャナ・アグリ・グループ(Kencana Agri Group)とウィルマー(Wilmar)

クンチャナ・アグリ・グループとウィルマーは受益所有者が同じ(クオック一族)であるため、まとめて記述する。

● クンチャナ・アグリ

クンチャナ・アグリは主にアブラヤシの栽培に関与するプランテーション企業であり、アブラヤシ果房を粗パーム油、粗パーム核油、パーム核ケーキ、パーム核へと加工する事業と廃液処理サービスを行っている。(124) 同社は1995年に設立され、本社をシンガポールに置いている。2008年7月25日よりシンガポール証券取引所に上場している。

クンチャナのアブラヤシ・プランテーションは主にインドネシアのスマトラ島、カリマンタン島、スラウェシ島にある。1996年に事業を開始して以来、このグループの栽培面積は2021年現在で約68,150ヘクタールまで拡大している(プラズマを含む)。同グループは現在、6つのパーム油工場(1時間あたり305トンの生産能力)と2つの穀粒粉砕工場(1日あたり435トンの生産能力)を保有している。同グループは現在、ゴロンタロ県に1時間あたり30トンの処理能力を持つ7番目のパーム油工場を建設中である。[125]

● ウィルマー

ウィルマー・グループはシンガポールに本社を置き、アブラヤシの栽培、油糧種子の粉砕、食用油の精製、粗糖の製造と精製、消費者向け製品、特殊油脂、油脂化学製品、バイオディーゼル、および肥料の製造、製粉、精米に関与するアグリビジネス企業である。[126]飼料・工業製品部門と食品部門が同社の事業の大半を占める。[127] 500を超える製造工場と、中国、インド、インドネシアをはじめ約50の国・地域を対象とする強力な流通ネットワークを保有している。[128] ウィルマーは現在、発行済み株式総額260億SGDの公開企業であり [129]、Wilmar Internationalとしてシンガポール、ドイツ、米国の証券取引所に上場している。

Wilmar Holdings Pte Ltdは1991年にシンガポールで非公開会社として設立された。同社はマレーシアのタイクーンRobert Kuokの甥であるKuok Khoon Hongとインドネシアの実業家Martua Sitorusが所有していた。[130] 2006年8月にWilmar Internationalがシンガポール証券取引所に上場された。2007年6月にWilmar Internationalはクオック・グループのアブラヤシおよび食用油事業部門との大型合併を完了した。[131]

同社はマレーシアで創業し、アジアで最も多角的かつ多国籍なコングロマリットとなったクオック・グループの傘下企業である。同社の事業は砂糖、肥料、化学製品、鉄鋼製品、機械、海運、物流、不動産、ホテル、メディアなど多岐にわたる部門への投資を含んでいる。

図13 クンチャナ・アグリ・グループとウィルマーの所有構造

出典: Kencana Agri (2022, April), Annual report 2021, p. 107 ; Wilmar International (2022, March), Annual Report 2021, p. 196.

Henry Maknawi(68歳)はKencana Holdings Pte Ltd.を通じてクンチャナ・アグリを所有・支配している。[132] 彼は同社のCEOを退任したが、依然として同社の会長である。Maknawi一族の他の2人もクンチャナ・アグリの経営に関与している。

● Henry Maknawi 

Henry Maknawiは2008年から2018年までクンチャナ・アグリのCEOだった。現在は同社の取締役会長である。[133]

● Albert Maknawi

Albert Maknawi(42歳の)はHenry Maknawiの息子である。彼は2018年に父の後を継いでクンチャナ・アグリのCEOに就任した。

彼は2004年にオーストラリアのUniversity of Melbourneを卒業し、工学士(名誉)および商学士を取得している。[134]

● Ratna Maknawi

Ratna Maknawi(53歳)はHenry Maknawiの妹。2018年からクンチャナ・アグリの取締役副会長に就いている。

彼女は米国のUniversity of Wisconsin-Whitewaterで経営管理学士号(会計学)を取得している。[135]

Wilmar InternationalはタイクーンのRobert KuokとKuok Khoon Hongが米国のADM社と共同で支配している。

● Robert Kuok

Robert Kuok(99歳)は、マレーシアの有力なタイクーンである。

クオックが支配する主な上場企業には、香港のKerry Properties Ltd、Shangri-La (Asia) Ltd、South China Morning Post、シンガポールのWilmar International Ltd、マレーシアのPPB Group Bhdがある。

Kuok の子息の何人かがクオック・グループの傘下企業の要職に就いている。しかし、彼の甥のKhoon Hong Kuokが彼の最も近い協力者と見られている。

● Khoon Hong Kuok

Khoon Hong Kuok(73歳)はRobert Kuokの甥。彼はWilmar Internationalの共同設立者であり、2006年からCEO、会長を務めている。

彼はUniversity of Singapore(当時)で経営管理学士号を取得している。[136]

Khoon Hong KuokがRobert Kuokの後継者になるだろう。

● Khoon Ean Kuok

Khoon Ean Kuok(67歳)はRobert Kuokの息子である。彼は2007年からWilmar Internationalの非常勤取締役となっている。[137] 

彼は英国のNottingham Universityを卒業し、経済学士号を取得している。

● Khoon Hua Kuok

Khoon Hua Kuok(44歳)はRobert Kuokの息子である。彼は2016年からWilmar Internationalの非常勤取締役となっている。

彼は米国のHarvard Universityを卒業し、経済学士号を取得している。[138]

4.13. ムシム・マス・グループ(Musim Mas Group)

ムシム・マス・グループは1972年に設立されたインドネシアの非公開企業で、カリム一族が支配している。グループの本部はシンガポールにあるが、フラグシップ企業のPT Musim Masは北スマトラ州メダンにある。同社は証券取引所に上場していない。

ムシム・マスは世界最大のパーム油企業の1つである。ムシム・マス・グループは13カ国に事業所があり、従業員総数は37,000人を超える。[139] 同グループの製品はMusim Masブランドで全世界に販売されている。

ムシム・マスは1972年に石鹸工場として事業を開始した。その後、創業者のAnwar Karimが同社をパーム油のアップストリームとダウンストリームを統合した総合的パーム油企業へと再編する計画に着手した。アップストリームのアブラヤシ栽培と製粉から、ミドルストリームの精製、穀粒粉砕、ダウンストリームの特殊油脂、バイオディーゼル、油脂化学製品(脂肪酸、脂肪アルコール、石鹸、パームワックス、グリセリン、その他の機能性製品など)の製造までに関与する企業である。同社は精製CPOを販売するほか、石鹸、食用油、マーガリンなどの自社ブランド製品も販売している。同社は世界最大級のパーム油精製工場を保有している。保有する流通関連の設備はトラックから海運用タンカーまで多岐にわたる。

ムシム・マス・グループは199,358ヘクタールの事業用地を保有し、18の搾油工場、9つの穀粒粉砕工場、23のパーム油精製工場、11の油脂化学製品工場、8つの特殊油脂製造工場、9つのバイオディーゼル製造工場を運営している。[140]

図14 ムシム・マス・グループの所有構造

出典: Musim Mas Holdings (2017, June), “Annual Report 2016”, p. 48.

Anwar Karimは1932年にNam Cheong Soap Factoryを設立し、同社はそれ以来、石鹸とマーガリンの有力メーカーである。

Anwarの息子、Bachtiar Karim(65歳、写真右)は2人の兄弟、Burhan、Bahari Karimと共同でムシム・マス・グループを所有・支配している。[141]

Bachtiar KarimはMusim Masの代表取締役会長である。[142] 彼はNational University of Singaporeで機械工学の学位を取得している。[143]

4.14. ラジャワリ・グループ(Rajawali Group)

ラジャワリ・グループのパーム油関連の株式保有は持株会社PT Eagle High Plantationsの下に集約されている。この会社は2000年11月に、インドネシアの実業家Budiono WidodoによってPT Bumi Perdana Prima Internationalとして設立された。同社は2007年に社名をPT BW Plantation Tbkに変更した。[144]

BW Plantationは2009年10月にIPOを実施し、それ以降ジャカルタ証券取引所に上場している。同社は2014年にラジャワリ・グループ傘下のGreen Eagleプランテーション・グループを買収した後、再び社名を変更し、PT Eagle High Plantations Tbkとなった。この買収の対価として、ラジャワリ・グループはEagle High Plantationsの支配株主となった。[145]

2021年の時点で、Eagle High Plantationの事業活動はスマトラ、カリマンタン、パプアの3つのプランテーションで行われている。3島を合わせたプランテーションの総面積は116,000ヘクタールである。Eagle High Plantationのパーム油工場の総生産能力は、年間2.5トンである。[146]

図15 ラジャワリ・グループの所有構造

出典: Eagle High Plantations (2022, April), 2021 Annual Report, p. 78 ; Rajawali Property Group (n.d.), “Our founder & Main shareholder”, online: https://www.rajawalipropertygroup.com/ourshareholder.php, visited in June 2023.

ピーター・ソンダックは20歳で亡父のアブラヤシ事業を引き継ぎ、その2年後にPT Rajawali Corporationを創業した。同社は現在、このタイクーンのフラグシップ企業となっている。

ラジャワリ・グループのポートフォリオにはホテル、鉱業・資源、プランテーション、メディア等の事業が含まれる。特に重要なものとして、Archi Indonesia、Eagle High Plantations Tbk、Golden Eagle Energy Tbk、Fortuna Indonesia、Rajawali Televisi St. Regis Bali(TVネットワーク)、Four Seasons Hotel Jakarta、Velo Networks(インターネットサービスプロバイダ)がある。また、同グループはマレーシアのランカウイ国際コンベンションセンター、St.Regis Langkawi Hotels and Resorts、St Regis Hotel and Residences Jakartaの建設に関与している。[147]

一部では、ソンダックはマレーシアのナジブ・ラザク前首相の顧問であり、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領の親友であると言われている。[148]

4.15. ロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループ(Royal Golden Eagle Group)

ロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループ(RGE)はメダンに本部を置くインドネシアのコングロマリットである。同社はスカント・タノトによって設立された。RGE の前身はラジャ・ガルーダ・マス(RGM)である。[149]

RGEグループの事業部門は製紙/パルプ、パーム油、溶解パルプ、ビスコース繊維、エネルギーである。RGEはシンガポール、香港、ジャカルタ、北京、南京に本社を置き、インドネシア、中国、ブラジル、スペイン、カナダで事業を展開している。[150]

RGE は1979 年にメダン近郊に最初のアブラヤシ・プランテーションを開発した。1989年にグループのアブラヤシ農園と貿易事業を管理するためにAsian Agriが設立された。現在、Asian Agri は 30 のアブラヤシ・プランテーションと22 のパーム油工場を管理している。[151] インドネシア国内のアブラヤシ・プランテーションは同社のインドネシアの子会社であるPT Inti Indosawit Suburが保有している。

図 16 ロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループの所有構造

出典: APRIL International Enterprise (2022), Directors’ Statement and Financial Statements Year Ended December 31, 2021, p. 47 ; Royal Golden Eagle (2022), Financial Statements Year ended 31 December 2021, p. 9 ; Orbis (n.d.), Riau Andalan Pulp & Paper: Corporate Ownership, p. 1 ; Orbis (n.d.), Asia Symbol Rizhao (Singapore): Corporate Ownership, p. 1 ; Orbis (n.d.), Asia Symbol International (Singapore): Corporate Ownership, p. 1 ; Apical Sumatera Management (2022), Financial Statements Year ended 31 December 2021, p. 12 ; Asian Agri (2022, April), Sustainability Report 2021, p. 9 ; April Fine Paper Holdings (2022), Financial Statements Year ended 31 December 2021, p. 39, 45.

スカント・タノト(73歳、中国名はタン・カン・フー)はインドネシアの実業家で、国営石油会社プルタミナへの設備・資材のサプライヤーとして事業活動を開始した。1974年に父親が亡くなり、スカントが家業の経営を引き継いだ。

4.16. サリム・グループ(Salim Group)

サリム・グループは1972年に中国系移民のスドノ・サリムとジュニア・パートナーのスタント・ジュハルによって設立された。1998年の経済危機以前は、サリム・グループはインドネシア最大の民間企業グループであり、インドネシアの経済生産の5%を支配していた。[152]

現在、サリム・グループは、主に食品、海運、通信、セメント部門で事業を展開するコングロマリットである。しかし、グループの事業にはアグリビジネス、流通・小売、自動車、不動産、ホテル・リゾート、銀行・金融サービス、インフラ、化学製品の製造、国際貿易等も含まれる。[153]

1990年代後半のアジア金融危機によりサリム・グループの規模は縮小した。しかし、同グループは依然として東南アジアに広範な資産を保有するインドネシア最大級の企業グループである。グループの持株会社は香港に本社を置くFirst Pacific Company Ltdである。[154]

インドネシアにおけるサリム・グループのフラグシップ企業は、インドネシア最大の食品企業であるPT Indofood Sukses Makmur Tbkである。同社は2013年12月にジャカルタ証券取引所でIPOを実施した。[155] 現在、Indofoodは即席麺、小麦粉、ブランド食用油脂、ベビーフード、スナック食品を始めとするほとんどの製品でインドネシア市場をリードしている。[156]

上記以外の事業として、サリム・グループは2012年に同国第2位の自動車メーカーであるIndomobilの株式の52.3%を取得した。[157] 同グループはまた、インドネシア国内で11,000以上の店舗を展開するコンビニエンス・ストア・チェーンIndomaretも支配している。[158]

サリム・グループはまた、インドネシアの大手銀行であるBank Central Asiaを設立したが、この銀行は1997-1998年の危機の後、別のコングロマリットに売却された。

2017年にサリム・グループは種々の傘下企業を通じてBank Ina Perdanaの株式の51%以上を買収した。同行はジャワ島内に22の支店を持ち、2016年12月時点で2.3兆IDRの資産を保有している。[159]

2022年に、サリム・グループは金融部門で帝国を築くことを目指して、傘下企業を通じてBank Mega(MEGA)の株式の買収を続けていると報じられた。[160]

図 17 サリム・グループの所有構造

出典: London Sumatra Indonesia (2022, May), Annual Report 2021, p. 10 ; Indofood Sukses Makmur (2022, May), Annual Report 2021, p. 8 ; First Pacific (2022, April), Annual Report 2021, p. 96, 97.

アンソニ・サリム(73歳)はサリム・グループ創業者スドノ・サリムの息子。サリム・グループの社長兼CEO、First Pacificの会長、PT Indofood Sukses Makmur TbkおよびPT Indofood CBP Sukses Makmur Tbkの社長兼CEOのほか、種々の企業でコミッショナー、取締役などの役職に就いている。

彼はまた、いくつかの多国籍企業の顧問も務める。過去にはGEおよびAllianz SEの国際顧問を歴任。また、現在、Rabobank Asiaの食品・アグリビジネス部門の顧問であり、2004年からは同社のアジア・ビジネス評議員でもある。

アンソニ・サリムは英国サリー州のイーウェル郡技術専門学校を卒業した。[161]

アクストン・サリム(43歳)はアンソニ・サリムの息子である。

彼は2004年にIndofood グループに入社。Indofood Sukses Makmurの乳製品事業部を統括し、現在はIndofoodおよびIndofood CBP Sukses Makmurの取締役、Indofood Agri ResourcesおよびGallant Ventureの非常勤取締役、London Sumatra IndonesiaおよびSalim Ivomas Pratamaのコミッショナーを兼務する。

アクストン・サリムは米国・コロラド大学経営学の理学士号を取得した。[162]

4.17. サンポルナ・グループ(Sampoerna Group)

サンポルナ・グループはインドネシア全土で有料道路、セメント生産、プランテーション、パルプ工場、アグリビジネス、通信、不動産、合板などの事業を展開するコングロマリットである。同グループは、インドネシアで最も裕福なファミリーの1つであるサンポルナ一族によって所有されている。

サンポルナ・グループは1913年に、プテラ・サンポルナの祖父であり、中国福建省からスラバヤに移住した中国系インドネシア人であるリエム・セン・ティによって設立された。1930年代に彼はサンポルナというインドネシア名(「完璧」を意味する)を採用した。リエム・セン・ティが設立したPT Hanjaya Mandala Sampoerna社はインドネシアのたばこ市場のリーダーとなり、2022年には同国のたばこ市場で28%のシェアを保持している。[163]

2005年にサンポルナ一族はPT Hanjaya Mandala Sampoernaの40%の株式を米国のたばこメーカー、Philip Morrisに18兆6,000億ルピア(20億米ドル)で売却した。Philip Morrisは残りの株主も買収し、2005年5月以降、このたばこメーカーの98%を保有している。サンポルナ一族は現在も同社の残りの株式を保有していると推定されている。[164]

この取引の後、一族はPT Sampoerna Strategicを設立した。この会社はインドネシア国内で大規模なアブラヤシ事業を行っている。2006年にサンポルナ一族はPT Sungai Rangit と PT Selapan Jayaの2つのプランテーション会社を買収し、PT Sampoerna Agro Tbk統合した。[165] この会社は2007年以降ジャカルタ証券取引所に上場されている。同社はまた、インドネシア農業省からDxP Sriwijayaのブランド名でアブラヤシの種子の生産と販売を認可されており、そのようなアブラヤシ種子生産企業は同国では数少ない。DxP Sriwijayaブランド製品の流通と販売はSampoerna Agroの子会社の1つである PT Binasawit Makmur を通じて行われている。[166]

図 18 サンポルナ・グループの所有構造

出典:Sampoerna Agro (2022, May), 2021 Annual Report, p. 59 ; Samko Timber (2022, April), Annual Report 2021, p. 89

プテラ・サンポルナ(75歳)はSampoerna Agriの最終的な受益所有者である。彼はオランダ生まれのインドネシア人実業家である。

プテラ・サンポルナは問題のある活動に関与してきた。2010年にサンポルナ一族とハサン・スナルコが支配するPT Sumalindo Lestari Jaya社は、当時のインドネシア大統領、スシロ・バンバン・ユドヨノの義妹であるウィジャシ・カヒャサシ(ウィウィ)をSULI社の会長に選出した。この人事により同社が2010年に違法伐採について告発された際、一族は詳細な調査を免れたと推測される。ウィウィは司法機関へのロビー活動に成功し、その結果SULIのアミール・スナルコ代表取締役と代表取締役代理に「法律上の保護」が与えられた。この2人の役員は東カリマンタンとパプアでの違法伐採に直接に関与していた。[167]

サンポルナ一族はまた、租税回避のためにクック諸島を利用したことでも告発されている。[168]

プテラ・サンポルナの2人の息子、マイケルとミッシェルは一族の事業の中で重要な地位を占めている。

マイケル・サンポルナ(44歳)はプテラの最も若い息子である。彼は2022年1月に辞任するまでSampoerna Agriの最高コミッショナーを務め、その後はエカ・ダルマジャント・カシがこの役職に就いた。マイケル・サンポルナはまた、Sampoerna Strategic Group傘下の多くの企業で最高コミッショナー、コミッショナー、取締役を務めている。

彼は英国のロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで学んだ。[169]

ジャクリーン・ミシェル・サンポルナはプテラ・サンポルナの長女。サンポルナ財団を通じて慈善プログラムを運営している。以前はPT Hanjaya Mandala Sampoernaのコミュニケーション・マネージャー、Sampoerna Jones Designsのディレクターを歴任している。

ジャクリーン・ミシェル・サンポルナは、カリフォルニアのセント・メリーズ・カレッジでマス・コミュニケーションの学士号を取得している。[170]

4.18. シナルマス・グループ(Sinar Mas Group)

シナルマス・グループは、1962年にエカ・チプタ・ウィジャヤによって商社として設立された。同グループは貿易業から発展し、インドネシア最大のコングロマリットの1つとなった。グループは製紙/パルプ製品、アグリビジネス・食品、開発・不動産、金融サービス、通信・テクノロジー、エネルギー・インフラ、ヘルスケアの7つの事業部門から成っている。[171] 傘下の多くの企業は種々の証券取引所に上場しているが、ウィジャヤ一族が依然としてグループの支配株式を保有している。

このグループのアグリビジネス・食品部門はGolden Agri-Resources Ltd. (GAR)を通じて事業を展開している。GARはインドネシア最大、世界第2位のアブラヤシ・プランテーション・グループである。1996年に設立されたGolden Agri-Resources Ltd. (GAR)は1999年からシンガポール証券取引所に上場している。

GARの主な事業は、アブラヤシの栽培、粗パーム油(CPO)の抽出、食用油の精製、高品質消費者向け製品、油脂化学製品、特殊油脂、バイオディーゼルの製造などである。同社はまた、パーム製品の世界的な販売も行っており、最近では砂糖の販売事業も開始した。GAR はまた、中国、インドなどの主要市場で現地精製施設を操業している。[172]

図 19 シナルマスの所有構造

出典:Sinar Mas Agro Resources Technology (2022, May), Consolidated Financial Statements For the Years-End December 31, 2021 and 2020, p. 94 ; Golden Agri Resources (2022, March), Annual Report 2021, p. 166, 208 ; Indah Kiat Pulp & Paper(2022, May), Annual Report 2021, p. 15 ; Asia Pulp & Paper (2022), Financial Statements Year ended December 31 2021, p. 21 ; Pindo Deli Pulp & Paper (2022, May), Financial Statements Year ended December 31 2021, p. 21 ; Pindo Deli Pulp & Paper (2022, May), Annual Report 2021, p. 21 21; Pindo Deli Pulp & Paper (2023, March), Consolidated Financial Statements With Independent Auditorsf Report December 31, 2022 and 2021, and January 1, 2021/December 31, 2020, For the Year ended December 31, 2022 and 2021, p. 11, 44, 81; Tjiwi Kimia Pulp & Paper (2022, November), 2021 Annual Report, p. 2.

エカ・チプタ・ウィジャヤ(Oei Ek-Tjhong、黄奕聡)はシナルマス・グループを設立し、ウィジャヤ一族を率いた。ウィジャヤ一族はその複数の構成員を通じて、Golden-Agri Resources社など、いくつかの分野で活動する企業の資産を支配しており、それらは一族が大部分の株式を所有する持株会社を通じて支配されているが、持株会社の所有情報は公表されていない。エカ・チプタ・ウィジャヤは2019年1月に98歳で死去し[173]、法律上は15人の子(実際にはもっと多い)が残された。その中には下記の者が含まれる:
* テグ・ガンダ・ウィジャヤ
テグ・ガンダ・ウィジャヤは78歳。
元シナルマス取締役社長。現在、シナルマス傘下のAsia Pulp & Paperの会長。[174]
* オエイ・ホン・レオン
オエイ・ホン・レオンは75歳。
シンガポール市民であり、シンガポール島に長年居住している。
彼の富の大部分は社債ポートフォリオと不動産からの収入である。[175]
* ムクタール・ウィジャヤ
ムクタール・ウィジャヤは68歳。
GARの代表取締役社長。1999年より取締役、2000年より社長を務め、2018年3月1日に代表取締役社長に再任された。2006年12月から2018年2月28日まで非常勤取締役。直近の取締役再任は2021年。
1976年にカナダのコンコルディア大学で商学士号を取得。[176]

* イライジャ・フランクル・”ジャファール”・ウィジャヤ
イライジャ・フランキー(ジャファール・ウィジャヤという名でも知られている)は66歳。
シナルマスの副会長である。[177]
彼はまた、シンガポールで上場している投資会社Bund Center Investmentを経営している[178]。
* フランキー・オエスマン・ウィジャヤ
フランキー・オエスマン・ウィジャヤは65歳。
Golden Agri-Resources Ltd(GAR)の会長兼CEOで、同社の人事および給与委員会の委員。1996年よりGARの取締役兼CEO、2000年より会長。直近の取締役再任は2019年。
1979年、青山学院大学商学部で学位取得。[179]
* フレディ・ウィジャヤ
フレディ・ウィジャヤは54歳。
彼は2019年に父親が死去した後、遺産相続をめぐって2020年に訴訟を起こした。

4.19. スンガイ・ブディ・グループ(Sungai Budi Group)

スンガイ・ブディ・グループは1947年にウィダルトによって設立されたインドネシアの多角的コングロマリットである。同グループはジャガイモ、タピオカ、化学製品(硫酸、クエン酸、グルタミン酸ナトリウムなど)を生産している。グループの主要企業はPT Budi Starch & Sweetener社(インドネシア最大のタピオカ澱粉メーカー)とPT Tunas Baru Lampung(パーム油メーカー)である。[180]

PT Budi Starch & Sweetener(前身は PT Budi Acid Jaya)は 1979 年に設立され、1995 年 5 月にジャカルタ証券取引所に上場した。PT Budi Starch & Sweetener の主要事業は、キャッサバを原料とする製品の製造である。その他の事業として化学製品、食品、その他の農産物(サツマイモ、ココヤシ、コプラなど)を製造・生産している。[181]

PT Tunas Baru Lampung は、パーム油プランテーションとそこでの生産物、および他の食品製造に関わる事業に従事している。同社は 1973 年に設立され、2000 年からジャカルタ証券取引所に上場している。[182] 。同社は食用パーム油、食用ココナツ油、植物性食用油、粗ココナッツ油、ステアリン、粗パーム油、パーム核油、パーム脂肪酸留分、ココナツ脂肪酸留分、パームおよびコプラ・チップ、石鹸など、農産物をベースとした消費者向け製品の製造・販売に従事している。特にRoseブランドの植物性食用油と米粉の製造で知られている。同社は製品を国内および国際市場で販売している。[183]

図 20 スンガイ・ブディ・グループの所有構造

出典 Tunas Baru Lampung (2022, May), Annual Report 2021, p. 52.

図 20 に示すように、PT Tunas Baru Lampung の最終的な受益所有者はウィダルトと サントソ・ウィナタの2人である。

* ウィダルト

ウィダルト(76歳)はインドネシアの実業家。

彼は1966年にスンガイ・ブディ・グループに入社し、1985年よりスンガイ・ブディの会長に就任。1986年よりPT Budi Starch & Sweetener Tbkの最高コミッショナー、TBLAの取締役社長を務める。[184]

* サントソ・ウィナタ

サントソ・ウィナタ(61歳)はインドネシアの実業家。ウィダルトの甥である。[185]

1982年にスンガイ・ブディ・グループに入社。1990年よりスンガイ・ブディの副会長、PT Budi Starch & Sweetener Tbkの取締役社長、TBLAの最高コミッショナーを務める。[186]

ウィダルト/ウィナタ一族の他の構成員(下記)もスンガイ・ブディ・グループの経営に関与している:

* オイ・アルフレッド

Oey Alfred(47歳)はウィダルトの息子である。[187]

2002年よりTunas Baru Lampung社の取締役。2000年にスンガイ・ブディ・グループに入社。2007年よりPT Budi Starch & Sweetener Tbkのコミッショナー。

2000年にオハイオ州立大学(米国)経営学学士号取得。[188]

* オイ・アルバート

ウィダルトの息子。[189]

1999年よりTunas Baru Lampungのコミッショナー。1998年にスンガイ・ブディ・グループに入社。2002年よりPT. Budi Starch & Sweetener Tbkの取締役を務める。

ノース・イースタン大学(米国)で経営学の学士号を取得。[190]

4.20. タンジュン・リンガ・グループ(Tanjung Lingga Group)

インドネシアのタンジュン・リンガ・グループはアブドゥル・ラシッドによって設立された。同グループはPT Sawit Sumbermas Sarana Tbk社(SSMS)を通じてパーム油事業を展開している。SSMSは1995年にアブラヤシ・プランテーション企業として設立され、パーム油の生産を主な事業とし、主にインドネシア国内での消費向けにFFBの栽培・加工とCPO、パーム核、パーム核油の生産している。同社は2013年末にインドネシア証券取引所でIPOを実施した。[191]

2014年と2015年にWilmar、Golden Agri-Resources、Apicalなどの大手パーム油輸出入業者がSSMSからのパーム油の購入を停止した。SSMSが自社のNDPE調達方針に違反していたことがその理由である。[192] 代わってUnileverがSSMS製品の買手となったが、SSMSが自社のSustainable Palm Oil Policyも完全には遵守していないことが明らかになったため、Unileverも2017年6月以降、調達を停止した。同様に、IFFCOの子会社であるPT Synergy Oil NusantaraがSSMSのもう1つの代替の買手として関与したが、IFFCOも2018年6月にSSMSからの調達を停止した。購入先や金融機関から警告を受けた後にである。[193]

図 21 タンジュン・リンガ・グループの所有構造

 出典: Sawit Sumbermas Sarana (2022, June), Annual Report 2021, p. 96 ; Profundo

アブドゥル・ラシッド(カリマンタンで出生)はタンジュン・リンガ・グループの創設者である。彼は家族(SSMSの副CMO[最高マーケティング責任者]のMonica Putri Rasyid、SSMSのサプライ・チェーン・マネージャーのErnis Desidistrisna、SSMSの代表取締役のJery Borneo Putra、およびJemmy Adriyanor)の持株を通じて持株会社PT Sawit Sumbermas Saranaを支配している。

アブドゥル・ラシッドは政治に関与し、インドネシア国会のカリマンタン州選出議員に選出された。

ラシッドは1990年代後半に中部カリマンタン州での森林に関わる犯罪の記録が残っている。

彼は2000年にインドネシア政府から、国内での違法伐採に関わる18人の首謀者の1人として名前を挙げられた。彼は自身が経営し、タンジュン・プティン国立公園とその周辺で活動しているTanjung Linggaによる違法伐採と木材密輸を計画していた。

環境調査局(EIA)は1999年に初めてラシードの違法伐採活動の記録を作成し、タンジュン・プティン国立公園から盗まれた有価値の木材について、タンジュン・リンガ・グループ傘下企業が所有する製材所に運ばれるまでのルートを追跡した。2000年初めに行われた追跡調査では、EIAのスタッフと同行のインドネシア人がタンジュン・リンガのスタッフによって拉致され、銃を突きつけられ、暴行を受けた。[194]

アブドゥル・ラシッドの甥であるスギアント・サブランは2016年1月に行われた中部カリマンタン州知事選挙において僅差で同州知事に選出された。ラシッドからの支援の結果であると報じられている。[195]

4.21. TSHリソーシズ(TSH Resources)

TSHリソーシズは1979年にマレーシアで設立され、同国でココア事業を開始した。1994年にクアラルンプール証券取引所に上場した。同グループはマレーシアにおけるカカオ豆および製品の最大の輸出業者であると自認している。TSHリソーシズは1990年代にサバ州におけるアブラヤシ産業に参入し、その後2000年代にはインドネシアのカリマンタン州とスマトラ島に進出した。

現在、このグループは主にアブラヤシ栽培と、生果房からパーム油・パーム核油への加工に従事している。この事業はTSHリソーシズの2021年の総収入の90%以上を占めている。他の事業として、バイオマス・バイオガス発電設備、林業、広葉樹フローリング、ココアなどがある。

2021年にこのグループはマレーシアとインドネシアで42,000ヘクタール以上の土地にアブラヤシを植林した。また、インドネシアのサバ州に3工場、カリマンタン州とスマテラ州にそれぞれ2工場、合計7工場のパーム油工場を運営している。

2007年にTSHリソーシズは、より下流の事業への進出を目指して、ウィルマー・インターナショナル・グループとの50:50の合弁事業を通じて、サバ州のパーム油精製工場とパーム核粉砕工場を取得した。[196]

図 22 TSH リソーシズの株主構成

出典 TSH Resources (2022, April), Annual report 2021, p. 44, 214, 215.

アイク一族は、家族を通じてTSHリソーシズの大部分の株式を所有している。その中で下記の4人の兄弟は企業の経営にも関与している:

* ダトゥク・ケルビン・タン・アイク・ペン

ダトゥク・ケルビン・タン・アイク・ペン(65歳)はマレーシアの実業家。TSHリソーシズの会長、共同設立者。1986年に取締役に就任して以来、TSHの取締役を務めてきた。

そのほかに多くの独立的企業の取締役を務めている。[197]

* ダト・アイク・シム・タン

ダト・アイク・シム、タン(59歳)はダトゥク・ケルビン・タン・アイクペンの弟。

2009年よりTSH リソーシズのグループ経営責任者。それ以前は2006年から2009年まで同グループのCEO。1992年に取締役に就任。

彼はまた、Ekowood International Berhadのグループ経営責任者でもあり、TSHの種々の子会社の取締役も務めている。

1988年にモナシュ大学(オーストラリア)で経済学と工学の学士号を取得。[198]

* タン・アイク・キオン

タン・アイク・キオン(63歳)は、ダトゥク・ケルビン・タン・アイク・ペンおよびダト・アイク・シム・タンの兄弟。

彼はTSHリソーシズのグループ専務取締役。1987年に同グループの取締役に就任。TSHリソーシズの種々の子会社の取締役も務め、他の独立的企業の取締役も務めている。

オクラホマ州立大学(米国)で土木工学の修士号を取得(専攻は建設管理)。[199]

– タン・アイク・ヨン

タン・アイク・ヨン(54歳)はダトゥク・ケルビン・タン・アイク・ペン、ダト・アイク・シム・タン、タン・アイク・キオンの弟。

2016年にTSHリソーシズの専務取締役に就任。それ以前は2003年に取締役代理。2002年にTSH Resourcesに入社し、投資計画、企業管理、財務を担当。それ以前は投資銀行に10年間勤務。

ロンドン大学クイーン・メアリー・カレッジで法学士号(LLB)を取得。1998年に公認証券アナリスト(CFA)の資格を取得。[200]

5. タイクーンによるアブラヤシ・パルプ材プランテーションの支配

インドネシアにおけるアブラヤシの総植林面積は1500万ヘクタールである。調査対象に選ばれたタイクーンは合計で約400万ヘクタール、つまりインドネシアのアブラヤシ栽培の26%を支配している。

5.1. インドネシアにおけるアブラヤシ作付面積

2021年にインドネシアのアブラヤシ作付面積は1500万ヘクタールだった。これはチュニジアの総面積とほぼ同じである。2017年から2021年の間にアブラヤシ作付面積は270万ヘクタールの純増だった。これはアルバニアなどの国の総面積に相当する。図23に示すように、アブラヤシ・プランテーションの占有面積が最も大きい州はリアウ、西カリマンタン、中央カリマンタンの3州であり、それぞれ290万、207万、205万ヘクタールとなっている。また、この図でわかるように、2017年からの増加では中央カリマンタン州が最も多く、821,916ヘクタールである。これはプエルトリコの総面積に相当する。次が西カリマンタン州で572,431ヘクタール、リアウ州は379,478ヘクタールだった。ほかに顕著な増加が見られたのは東カリマンタン州(360,832ヘクタール)とジャンビ州(334,550ヘクタール)である。

図23 州別のアブラヤシ・プランテーション占有面積の増加

百万ヘクタール

2017~2021年の増加分

出典: Directorate General of Estate Crops (2021, April), Statistical of national leading estate crops commodity 2019 – 2021, p. 15-16, 19-20; Indonesian Ministry of Agriculture (2015, May), Tree Crop Estate Statistics of Indonesia 2013-2015 Palm Oil, Directorate General of Estate Crops, The Indonesian Ministry of Agriculture, Jakarta, Indonesia, p. 9; Indonesian Ministry of Agriculture (2017, September), Tree Crop Estate Statistics of Indonesia 2015-2017 Palm Oil, Directorate General of Estate Crops, The Indonesian Ministry of Agriculture, Jakarta, Indonesia, p. 10-11.

表5は2013年から2021年の間の州別のアブラヤシ・プランテーションの占有面積の変化をより詳細に示している。この表はまた、2017年から2021年の間に北スマトラ州のアブラヤシ・プランテーションの占有面積が129,114ヘクタール減少していることを示している。

201320152017201920212013-2021の増加分2017-2021の増加分
Riau2,212,7572,419,8892,515,6052,741,6212,895,083682,326379,478
West Kalimantan914,8351,144,1851,497,8412,017,4562,070,2721,155,437572,431
Central Kalimantan1,099,6921,142,0041,227,8741,922,0832,049,790950,098821,916
North Sumatra1,340,3481,427,0211,474,8971,373,2731,345,7835,435-129,114
East Kalimantan714,211849,609973,0731,254,2241,333,905619,694360,832
South Sumatra1,060,573952,0821,020,3281,191,4011,215,476154,903195,148
Jambi657,929714,399755,5221,034,8041,090,072432,143334,550
South Kalimantan475,739421,068455,674471,264504,91929,18049,245
Aceh396,644428,216458,619487,526495,23698,59236,617
West Sumatra364,208383,385413,158379,662399,02334,815-14,135
Bengkulu290,633288,914311,671310,672329,89339,26018,222
Bangka-Belitung201,091211,082226,378225,160243,44742,35617,069
Papua and West Papua89,696101,833115,546224,337214,006124,31098,460
Lampung158,045207,868224,175193,004199,18241,137-24,993
North Kalimantan102,046157,426185,598155,379160,08958,043-25,509
West Sulawesi96,318108,154116,500156,070158,39862,08041,898
Central Sulawesi140,882151,122165,714137,539148,0577,175-17,657
Other Sulawesi81,680108,601121,846125,237112,39130,711-9,455
Java33,71233,36736,59732,95833,260-452-3,337
Maluku and North Maluku33,98110,05011,06315,54316,652-17,3295,589
合計10,465,02011,260,27512,307,67914,449,21315,014,9344,549,9142,707,255

出典:Directorate General of Estate Crops (2021, April), Statistical of national leading estate crops commodity 2019 – 2021, p. 15-16, 19-20; Indonesian Ministry of Agriculture (2015, May), Tree Crop Estate Statistics of Indonesia 2013-2015 Palm Oil, Directorate General of Estate Crops, The Indonesian Ministry of Agriculture, Jakarta, Indonesia, p. 9; Indonesian Ministry of Agriculture (2017, September), Tree Crop Estate Statistics of Indonesia 2015-2017 Palm Oil, Directorate General of Estate Crops, The Indonesian Ministry of Agriculture, Jakarta, Indonesia, p. 10-11.

5.2. タイクーンによるアブラヤシ栽培地域の支配

調査対象に選ばれたタイクーンは、2021年末時点で390万ヘクタール以上のアブラヤシ栽培地域を支配していた。これは2021年のインドネシア全体のアブラヤシ作付面積の26%を占める(図24)。2017年でも24%であり、2013年の29%から減少している。しかしタイクーンが支配するアブラヤシ作付面積は2013年以降少なくとも80万ヘクタール増加しており、2017年以降では50万ヘクタール増加している。

図24 インドネシアのアブラヤシ・プランテーション総面積の増加におけるタイクーン25グループの占める割合

100万ヘクタール

タイクーンが支配するアブラヤシ・プランテーション(ha)

インドネシアのアブラヤシ・プランテーション(ha)

出典: Directorate General of Estate Crops (2021, April), Statistical of national leading estate crops commodity 2019 – 2021, p. 15-16, 19-20; Indonesian Ministry of Agriculture (2015, May), Tree Crop Estate Statistics of Indonesia 2013-2015 Palm Oil, Directorate General of Estate Crops, The Indonesian Ministry of Agriculture, Jakarta, Indonesia, p. 9; Indonesian Ministry of Agriculture (2017, September), Tree Crop Estate Statistics of Indonesia 2015-2017 Palm Oil, Directorate General of Estate Crops, The Indonesian Ministry of Agriculture, Jakarta, Indonesia, p. 10-11; および[201]を参照。

保有するアブラヤシ栽培地の面積が最も大きいグループはシナルマスで、タイクーン全体の14%、インドネシア全体の約4%を支配している(図 25を参照)。また、シナル・マスが他の森林事業(木材・パルプ材関連事業など)にも関与していることに留意する必要がある。

第2位はサリム・グループで、同グループが保有するアブラヤシ栽培地の面積はタイクーン全体の約8%、インドネシア全体の約2.1%を占めている。次がジャーディン・マセソン・グループで、タイクーン全体の7%、インドネシア全体の1.8%を占めている(2021年時点)。

図 25 25グループが保有するアブラヤシ栽培地面積(2021 年)

390万ヘクタール

出典:[202]を参照

表 6 はタイクーンが支配する企業グループごとのアブラヤシ作付面積の詳細である。これによると、これら企業の総計の作付面積はスイスの総面積とほぼ同じである。

グループ面積(ha)インドネシアのアブラヤシ栽培総面積に占める割合
Sinar Mas536,0133.6%
Salim Group300,7492.0%
Jardine Matheson286,7271.9%
Wilmar238,0031.6%
Surya Dumai Group212,2081.4%
KPN Corporation199,6901.3%
Batu Kawan Group192,9291.3%
Harita Group187,9171.3%
Sampoerna Group186,0361.2%
Genting Group178,8861.2%
Kencana Agri Group165,1111.1%
Triputra Group160,1001.1%
Musim Mas Group123,9980.8%
Rajawali Group123,9470.8%
Tanjung Lingga Group115,6490.8%
DSN Group112,6000.7%
Royal Golden Eagle Group100,0000.7%
Fangiono Agro Plantation (FAP Agri) 88,7520.6%
Sungai Budi Group77,0000.5%
TSH Resources75,8640.5%
Anglo-Eastern Group66,9890.4%
Carson Cumberbatch Group61,7600.4%
Austindo Group54,6300.4%
Boon Siew Group37,1480.2%
IOI21,1470.1%
合計3,903,85326.0%

調査対象に選ばれたタイクーン支配下のグループはインドネシアのパーム油部門を完全に網羅しているわけではない。この部門ではこれらの企業のほかに、Perkebunan Nusantara や Sime Darby Plantations のような国営企業や、GAMA、Gozco、Provident Agro などのタイクーン傘下の小規模な企業なども事業を行っている。また、調査対象に選ばれた企業の土地管理情報が完全に開示されているわけではないため、これらの企業が実際に管理する土地は、認識されているものよりも多いと思われる。さらに、タイクーンは租税回避、保有資産の隠蔽、認可要件の回避、その他の目的で、「影の構造」を通じて企業の所有関係を隠している可能性がある。

6. タイクーン支配下のグループの資金調達

平均的に、タイクーンはその傘下企業の貸借対照表上の資金調達先の31%を占めている。

森林リスクに関連するクレジット・フローは年間50億米ドルから90億米ドルの間で変動し、ピークは2021年の150億米ドルである。2022年9月時点で、機関投資家は調査対象となったタイクーン支配下のグループのパーム油・製紙/パルプ関連の投資に対応する資産の内66億米ドルを保有している。

6.1. 貸借対照表に基づく資金調達の評価

それぞれのタイクーンがグループの事業拡大プロセスを促進するために外部資金をどの程度利用しているかを評価するため、本調査では2021年の年次報告書(調査時点で入手可能な最新データ)を用いて上場企業の貸借対照表を分析した。非上場企業2社についても、この貸借対照表に基づく分析を行った。

調査では、事業拡大のために充当できる資本を特定することによって、合計資産がどのように資金調達されたかを分析した。これには株主から提供された資本、少数株主持分(合弁パートナーから提供された資本)、投資に利用可能な長期負債(銀行ローンや社債)が含まれる。

平均して、タイクーンはこれらの企業の貸借対照表上の資金調達先の32%を占めている。グループ間では1%(Samko Timberグループ)から95%(Sensiling)までの幅がある。外部投資家が貸借対照表上の資金調達先に占める割合は平均で22%だった。ここでもグループ間で0%(APRIL)から60%(ジャーディン・マセソン)までの幅がある。債券保有が占める割合は平均6%と小さく、グループ間では0%から31%(Genting Group)までの幅がある。銀行融資の役割はより大きく、これらの企業の貸借対照表上の資金調達先に占める割合は平均25%を占めている。グループ間では0%から66%(APRIL)までの幅がある。

表7は、調査対象となったタイクーンの間で事業資金調達の方法に大きな違いがあることを示している。この表から明らかなように、サリム・グループ、ジャーディン・マセソン・グループ、カーソン・カンバーバッチ・グループ、ゲンティン・グループなど、上場企業が多層にわたって組織されているタイクーンにおいては、この構造の最下層にある企業はその保有者であるタイクーンからの株式投資に依存する割合が、他の株主の出資や社債、銀行からの融資に依存する割合より大きい。

グループ上場子会社タイクーンが保有する株式他の者が保有する株式債券の保有銀行融資その他
Austindo GroupAustindo Nusantara Jaya60%6%0%26%8%
Batu Kawan GroupBatu Kawan Group12%38%17%15%18%
 Kuala Lumpur Kepong24%27%16%15%18%
Carson Cumberbatch GroupBukit Darah PLC6%33%0%41%20%
 Carson Cumberbatch Group14%27%0%39%19%
 Good Hope91%9%0%0%0%
 Indo-Malay PLC 87%13%0%0%1%
 Selinsing95%4%0%0%0%
DSN GroupDharma Satya Nusantara31%21%3%32%13%
Fangiono Agro Plantation (FAP Agri) Fangiono Agro Plantation (FAP Agri) 32%8%0%42%18%
Boon Siew GroupOriental Holdings Berhad38%37%0%19%6%
Harita GroupBumitama Agri30%37%14%10%9%
Kencana Agri GroupKencana Agri9%0%0%69%22%
Musim Mas GroupMusim Mas Group49%2%0%18%31%
Rajawali GroupBW Plantation9%15%0%47%30%
Salim GroupFirst Pacific6%34%14%28%18%
 Indofood Sukses Makmur13%35%23%12%17%
 Indofood Agri-Resources26%31%0%27%16%
 Salim Ivomas Pratama35%20%0%27%18%
 PP London Sumatra Indonesia51%35%0%0%14%
Sampoerna GroupSamko Timber Group1%12%0%52%35%
 Sampoerna Agri Resources26%13%6%34%21%
Sungai Budi GroupTunas Baru Lampung17%14%18%28%23%
Surya Dumai GroupFirst Resources42%26%0%22%10%
Tanjung Lingga GroupSawit Sumbermas Sarana30%14%31%15%11%
Genting GroupGenting Group13%39%31%8%10%
 Genting Plantations32%28%11%17%11%
Triputra GroupTriputra Agro Persada14%49%0%26%11%
TSH ResourcesTSH Resources22%33%0%34%12%
Royal Golden Eagle GroupAsia Pacific Resources International6%0%0%66%28%
IOIIOI29%30%7%19%15%
WilmarWilmar11%28%1%49%12%
Sinar Mas GroupLontar Papyrus50%7%13%23%7%
 Oki Mills Pulp & Paper49%1%10%34%7%
 Pindo Deli Pulp & Paper Mills50%1%7%35%8%
 Tjiwi Kimia Pulp & Paper33%22%1%34%9%
 Indah Kiat Pulp & Paper28%25%13%26%8%
 Golden Agri Resources25%26%5%26%18%
 Sinar Mas Agro Resources Technology33%3%16%33%15%
Jardine MathesonJardine Matheson4%60%7%11%18%
 Astra International23%35%4%15%22%
 Astra Agro Lestari54%16%0%19%12%
Anglo-Eastern GroupAnglo-Eastern Group37%53%0%0%10%
Average 31%22%6%25%15%

銀行融資や機関投資家による株式・債券への投資はタイクーンに対して、他の方法では調達できないような多額の資本を投入する機会を提供する。これはタイクーン支配下のグループの成長の加速化に役立っている。このような成長は、タイクーンが一層の成長のための投資に自由に使える大きなキャッシュ・フローを生み出す。タイクーンはグループの事業拡大のプロセスを支配し、銀行や機関投資家が提供する資金はそのような事業拡大を加速させるためのフライホイール(はずみ車)となる。

図26 パーム油・製紙/パルプ関連主要持株会社別の貸借対照表上の資金調達先内訳(2021年)

タイクーン保有株式

他の者の保有株式

債券

銀行融資

その他

出典:[205]を参照

6.2. タイクーン支配下の企業への資金の流れ

6.2.1. 債権者

表 8 は調査対象のタイクーンの支配下の企業のパーム油・製紙/パルプ事業に関連する年間のクレジット・フローを示している。年間のクレジット・フローは 50 億米ドルから 90 億米ドルの間で変動し、ピークは 150 億米ドルである。

表8 タイクーンの支配下企業に対する年間の森林リスクに関連するクレジット・フロー(2017~2022年9月、100万米ドル)

100万米ドル

融資

引受

出典:Forests & Finance、2023年5月取得。

タイクーン支配下のグループの中で、2017年から2022年9月までの期間に融資と引き受けを通じて最も多くの資金を受け取ったのはシナルマス・グループだった(図27参照)。同グループはパーム油および製紙/パルプに関連する信用供与によって255億米ドルを受け取った。次がロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループ(73億米ドル)、サリム・グループ(34億米ドル)である。

図 27 タイクーン・グループ別の融資・引受額(2017~2022 年 9 月、百万米ドル)

100万米ドル

融資

引受

出典:Forests & Finance, retrieved May 2023.

タイクーン支配下のグループに対する最大の債権者はBank Mandiriだった。この国有銀行は2017年から2022年9月までの期間にタイクーン支配下のグループに対してパーム油・製紙/パルプに関連する融資および引受サービスとして45億米ドル提供した(図28参照)。同銀行の次はインドネシアのもう1つの大手国有銀行であるBank Rakyat Indonesia(融資および引受額43億米ドル)と、タイクーン支配下のBank Central Asia(同40億米ドル)だった。Bank Central Asiaはジャルム・グループの所有者でもあるブディ・ハルトノが保有している(3.1節参照)。

図28 タイクーンに対する債権者(2017~2022年9月、100万米ドル)

出典:Forests & Finance, retrieved May 2023

100万米ドル

融資

引受

タイクーン支配グループ別の債権者上位 5 社については付属書 1 の表 9 を参照。

6.2.2. 投資家

調査対象のタイクーン支配下のグループに対する機関投資家からのパーム油・製紙/パルプ関連の投資は 2022 年 9 月時点で66 億米ドルだった。

タイクーン支配下のグループの中で、バトゥ・カワン・グループは自社が発行した債券および株式に対する機関投資家からの投資額が最も大きかった。2022年9月現在、投資家はバトゥ・カワンとその傘下の子会社のパーム油・製紙/パルプ関連の債券と株式17億米ドルを保有している。それに続くのがマレーシアのIOI(債券・株式保有額11億米ドル)とインドネシアのコングロマリット、シナルマス・グループ(同9億米ドル)だった。

図 29 タイクーン・グループ別の機関投資家による投資額(2022 年 9 月、100 万米ドル)

100万米ドル

融資

引受

出典:Forests & Finance, retrieved May 2023

マレーシアの2つの政府系機関投資家がタイクーン支配下のグループのパーム油・製紙/パルプ関連の投資に対して最も大きな債券を保有している。Employees Provident Fund(投資額13億米ドル)とPermodalan Nasion Berhad(同5億米ドル)である。マレーシアの政府系機関投資家による高水準の投資は、マレーシアで上場している3つのグループ、バトゥ・カワン、IOI、ゲンティンへの投資によるものである。

マレーシアの政府系機関投資家に続くのが米国の大手資産運用会社Vanguard (同4.2 億米ドル)とBlackRock (同3.8 億米ドル)である(図 30 参照)。

図 30 機関投資家によるタイクーンへの投資(2022 年 9 月、百万米ドル)

100万米ドル

融資

引受

出典:Forests & Finance, retrieved May 2023

タイクーン支配下のグループ別の機関投資家上位5社については、付属書1の表10を参照。

7. 結論

7.1. まとめ

タイクーンが保有する資産の合計は2021年時点で800億米ドル以上であり、これらのグループは同年にパーム油による収入約1000億米ドルと製紙/パルプによる収入約100億米ドルを生み出している。平均すると、タイクーン傘下企業の貸借対照表上の資金調達の31%がタイクーンからの出資であり、22%は外部投資家から、25%は銀行からである。2021年に銀行は調査対象のタイクーン支配下のグループに対して約150億米ドルの森林リスク・クレジットを提供した。外部投資家は2022年9月時点で、調査対象のタイクーン支配下のグループに対してパーム油および製紙/パルプに関連する投資を通じて66億米ドルの債権を保有している。このような森林リスク関連の債権者および投資家は、タイクーン支配下のグループが2017年以降にアブラヤシ栽培のためのランドバンクを50万ヘクタール以上拡大することを可能にした。調査対象のタイクーンは2021 年にはインドネシアのアブラヤシ栽培地総面積の 26%を占め、これは2017 年の 24%から増加している。

7.2. 政策の結果

本調査の結果は、少数のタイクーン支配下のグループが依然としてインドネシアのアブラヤシ部門を支配しつづけていることを示している。

この調査結果はいくつかの問題を提起している:

* タイクーン支配下のグループの事業拡大の可能性は憂慮すべきものであり、一層の経済的不平等を生み出すだろう。現在継続されている許認可のレビューでは、これらの許認可がすべて適法的かつ公正に(腐敗なしに)行われ、インドネシア政府の他の政策目標(パーム油事業の認可の一時停止[モラトリアム]など)に適合するよう監視する必要がある。

* 銀行は依然としてタイクーン支配下のグループに多額の融資を行っている。OJKはこれがPOJKによって求められる銀行の持続可能な融資計画と合致しているかどうかを調査するべきである。OJKはまた、外国の政府機関とも協議する必要がある。なぜならパーム油部門の事業拡大のための資金がすべて外国の銀行から調達されるなら、持続可能な融資計画は効力を失うからである。

* 融資は持続可能な開発のため、そしてSDGsの資金調達のために使われるべきである。Indonesian Committee for SDGsにとっても、これはパーム油事業の拡大への融資を注意深く監視しなければならない理由となる。