本書の目的

 本書は、例えばマネーロンダリング調査や持続可能性デューデリジェンスの一環として、または苦情や苦情処理メカニズムで使用するツールとして、研究者が企業グループの構造を発見するために使用する枠組みを定めたものである。この方法論は、25以上の組織や個人からなる連合によって支持され、国際環境NGOグリーンピースが、センター・フォー・グローバル・アドバンスメント(C4GA)、フォレスト・ピープルズ・プログラム(FPP)、Profundo、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)の協力を得て開発した。これは企業構造の分析に関する長年の経験を反映したもので、法律の専門家とフォレンジック・アカウンタントのチームによって見直され、改良されたものである。

 この方法論は、これまでさまざまな組織で採用されてきた責任枠組みイニシアチブ(AFi)による企業グループの定義を適用している。この定義を適用するための共通のアプローチは、説明責任のプロセスの助けになるだろう。

 責任枠組みイニシアチブ(AFi)による企業グループの定義は、グループ支配の現実を反映するため、必然的に幅広いものとなる。また、グループは何らかの理由でその構成員について透明性を保ちたがらないこともあるため、さらに複雑なものとなっている。企業が共通支配下にあるかどうかの判断は、証拠の収集と評価を通じてのみ可能である。

 責任枠組みイニシアチブ(AFi)の定義が広範であることは、関連する方法論が本質的に労働集約的であることを意味する。定義を実施するための共通プロセスに関する合意は、指標を使用するグループによる継続的な出版物やデータの共有の拡大につながり、奨励されるべきである。

目次

  • 定義
  • 1. はじめに
  • 1.1. グループとしての責任
  • 1.2. 本書の目的
  • 1.3. アカウンタビリティ・フレームワーク・イニシアチブ 企業グループの定義と解釈
  • 2. 手法の各ステップの説明
  • 2.1. ステージ 1 ー 既知の企業構造のマッピング
  • 2.2. ステージ 2 ー 追加調査対象企業の特定
  • 2.3. ステージ 3 ー 指標別の証拠の収集と分析
  • 2.4. ステージ 4 ー 証拠の集約とコメント機会の提供
  • 2.5. ステージ 5 ー モニターおよびアップデート

定義

関連企業(Associated company)他の企業が合法的に重要な少数株式を保有する企業で、通常20%から50%の株式を保有する。
実質的所有者会社や証券、その他の資産を最終的に所有および/または支配する、あるいはそのような資産から経済的利益を得る権利を持つ自然人(つまり、会社などの「法人」ではなく個人)。
会社、有価証券、その他の資産を最終的に所有・支配する、またはそのような資産か ら経済的利益を得る権利を有する自然人(会社などの「法人」ではなく個人)1。
本方法論において、「受益者」という用語は、特に断りのない限り、「最終的な最終受益者」の略語とし て使用される。
この方法論では、「受益者」という用語は、別段の定めがない限り、「最終受益者」の略語として使用する。
企業グループ、または「グループ」と呼ばれる共通の支配下にある企業の総体。
アカウンタビリティ・フレームワーク・イニシアティブでは、企業グループについて以下のように定義している:
 いずれかの当事者が他方の当事者の行動や業績を支配する関係にある、その企業が属する法人 の総体。
この定義の明確化と支配を決定する要因については、以下のセクションI.3で詳しく説明する。
重要な利害関係者(Critical stake)その持分の最終的な所有者が支配企業として扱われるために、法的にまたは受益的に所有する必要のある、企業の最低持株比率(株式資本または議決権に対する割合として計算される)。その持分の最終的な所有者が、所有権を理由として会社の支配企業として扱われるために、法的または受益的に所有する必要がある会社の持分の最小値。その持分の最終的な所有者が、所有権を理由にその会社の支配企業として扱われるためには、法的または受益的に所有される必要がある。
セクションⅢ「クリティカル・ステークの設定と適用に関するガイダンス」を参照のこと。
同族経営(Family control)同族による共同支配は、異なる会社の受益者間に密接な同族関係が存在し、それらの会社が同族によって経営され、または同族の利益のために経営される場合に発生する。一族による共同支配とは、異なる会社の受益者間に緊密な一族関係が存在し、それらの会社が一族によって、または一族の利益のために経営されている場合に発生する。
金融的支配(Financial control)グループ、その支配企業、またはその構成員の一人が、その企業に対して支配力を行使できるような投資や融資を行う(株式所有以外の)取り決め。グループ、その支配企業、またはその構成員の一人が、ある会社に投資し、またはその他の方法で資金を提供した結果、その会社に対して支配力を行使することができるような取り決め。
また、あるグループまたは企業が、以下のような契約により、他の企業の製品を単独で購入する場合にも、財務的支配が存在するとみなされる場合がある。また、あるグループや企業が、契約やその他の提携によって他社製品の唯一の買い手となり、生産企業がそのグループや企業に財務的に依存するような契約の結果として、財務的支配が存在すると仮定することもできるが、購買グループまたは企業に財政的に依存している場合である。
ガバナンス・メカニズム(Grievance mechanism)アカウンタビリティ・フレームワーク・イニシアティブでは、次のように定義している:
ビジネスに関連した人権や環境への悪影響に関する苦情が提起され、救済が求められる日常的なプロセス。苦情処理メカニズムには、国家ベースのものと非国家ベースのものがあり、司法的なものと非司法的なものがある。
法的所有者(Legal owner)会社やその他の資産の登記上の、公式な、または正式な所有者、 例えば株式所有など。この用語は、実質的所有者と対比して使用されることが多い。法律上の所有権は必ずしも支配権を伴わないという認識から、受益者と対比して用いられることが多い。
マネジメント・コントロール(Management control)経営支配力とは、グループ(またはその構成員の一人)側が企業に対して経営上の意思決定を行う力のことである。
指名役員(Nominee officer)より実質的な支配権を持つ他の人物、またはその両方 の代理人として、会社の役員に就任する個人。より実質的な支配権を主張する者、会社を所有する者、またはその両方。
指名株主(Nominee shareholder)ノミニー(Nominee)とは、登録された個人の株式所有者のことで、多くの場合、身元が公 開されていない他人(受益者)の利益のために、代理人または代理人として株式を保有する。
ノミニー・アレンジメントは、法的強制力があり、規制されている法域もあれば、そうでない法域もある。
Officer会社の法的役職に就く個人。これには、取締役、秘書役、会計役、コミッショナー、および会社が登記されている管轄区域の公式登記簿に記載されているその他の役職が含まれる。
Operational controlグループによる運営支配は、そのグループの一員である会社によって土地所有や施設が運営されている場合に発生すると考えられる。
Operations本方法論において、環境または社会に影響を及ぼす可能性のある企業またはグループの活動、土地保有、施設。これには、植林、土地または森林管理、鉱山、加工施設、インフラ、輸送、探査、測量、人的資源管理、許認可の取得、開発権または管理権を取得済みまたは求めている未開発の土地、法的要件、持続可能性要件、企業の社会的責任要件、または自主的なコミットメントを満たすための付帯プロジェクトが含まれるが、これらに限定されない。
Parent本方法論では、他の会社(子会社)の議決権の50%以上を法的に所有する会社を指す。異なる種類の株式によって付与される議決権に関する情報が入手できない場合は、他の会社の株式の50%以上を法的に所有する会社をその親会社と仮定することができる。注:この定義は、親子関係における様々な形態の支配を含む他の定義よりも、意図的に制限的なものである。
Power of attorney特定の法律上または財務上の事項について、第三者が他者に代わって行動する法的特権を認める書面による認可。ノミニーアレンジメントの一環として、会社の支配主体が誰であるかを不明確にするために使用されることもある。私的な法的取り決めであるため、会社の文書で言及されることはほとんどない。
Related party会計基準で定義される、会社に関連する自然人または会社。正確な定義は法域や文脈によって異なる。上場企業は、潜在的な利益相反の透明性を確保するため、関連当事者との取引を報告する義務がある。潜在的な利益相反の透明性を確保するために報告する義務がある。以下の定義は国際会計基準第24号によるものである:
関連当事者とは、報告企業と関係のある個人または事業体をいう:
– 報告企業に対して支配力、共同支配力、もしくは重要な影響力を有する者、または主要な経営陣の一員である者は、報告企業と関連している。
– 特に、報告企業の親会社、子会社、関連会社、ジョイント・ベンチャーである場合、または報告企業が関連当事者である人物に支配、共同支配、もしくは重要な影響、経営を受けている場合、企業は報告企業と関連している。
Secrecy jurisdiction企業の所有権や支配権、そこで保有される資産の価値、そこで行われる金融取引の詳細など、個人や企業がその法域で登録および/または保有する資産に関連する情報の開示を回避できるような法的取り決めを導入している法域。このような取り決めにより、利用者は他の法域の情報開示規制への準拠を回避することができ、その結果、資産や活動に関する秘密を維持することができる。
Shadow company自称グループと共通の支配下にある会社、またはグループの支配下にあるが、そのグループの一員であることを公に認めていない会社。
サブグループ(Subgroup)リサーチャーが特定した企業のサブセットで、同じ支配企業を共有していることが合理的に確実なもの:

– 同じ法的所有者(正式サブグループ)、および/または
– 同じ社名で取引している、またはグループとして自認している(申告サブグループ)。
サブグループは、その一部である可能性のある、より大きなグループとのつながりがあることが知られているか、疑われている。
子会社(Subsidiary)本方法論では、他の会社(親会社)が50%以上の議決権を法的に所有している会社を指す。異なる種類の株式によって付与される議決権に関する情報が入手できない場合は、他の会社が50%以上の株式の法的所有者である会社を子会社と仮定することができる。注:これは、親子関係における様々な形態の支配を含む他の定義よりも、意図的に制限的なものである。
Sustainability
commitment
アカウンタビリティ・フレームワーク・イニシアティブでは、次のように定義している:

環境、社会、および/またはガバナンスに関するトピックの管理または実績に関して、その企業が取るつもりの行動、または達成するつもりの目標、基準、またはターゲットを明記した企業による公的声明。
Sustainability policy(ies)倫理的、社会的、環境的慣行に対する組織のコミットメントを定義する方針。農産物のサプライチェーンにおける「森林伐採、 泥炭、搾取の禁止」の原則など、関連する法律、規 制、その他の確立された基準へのコミットメントを 定義する方針2 。農産物のサプライチェーンにおける「森林伐採なし、 泥炭なし、搾取なし」の原則などである2。
サステナビリティ・コミットメントも参照のこと。

1. はじめに

1.1 グループとしての責任

 「グループとしての責任」という原則は、サプライチェーン、財務、認証等に関連する規制要件、サステナビリティ方針、デューデリジェンスの重要な要素である。この基本的な考え方は、いかなる企業も共通支配下にある企業または事業体に起因する法律、規制、またはサステナビリティ方針への違反について、その法的な所有関係や商号に関わりなく責任を問われる可能性があること、また、そのような違反に対してサプライヤー、顧客、貸手、投資家または認証機関によって課されるすべての制裁措置が共通支配下にあるすべての企業および事業体に適用されることである。サプライヤー、顧客、認証機関または金融機関は、共通支配下のいずれかの企業による法律、規制、またはサステナビリティ方針への違反について、その企業が自社のサプライチェーンの一部であるか、または自社から融資を受けているか、もしくはその機関の基準に適合していると認証されているか、またはグループ内の別の部門で発生したか否かに関わりなく、同じ方法で扱うべきである。

  本書における「支配」および「共通支配」の定義は本書の冒頭に記載されている(「定義」を参照)。「支配」の定義が認めているように、支配が行使される

造の下にある企業以外にも拡大される。その目的は、持続不可能性を伴う可能性がある産業のアクターがサステナビリティ方針をいつどこで遵守し、いつどこで違反するかを選択することを容認せず、その産業全体の持続可能性を改善するために行動するよう促すことである。

 論理的には、この原則はグループが関与するすべてのコモディティおよびセクターにも拡大適用されるべきである。つまり、グループがパーム油や産業植林、露天掘り石炭採掘に関わる企業を支配下に置いている場合、このいずれかのセクターのグループ企業によるサステナビリティ方針への違反は、他の部門のグループ企業を含むグループ全体によるサステナビリティ方針への違反とみなされるべきである。しかし、実際には、特定のコモディティ(パーム油など)は他の商品よりも厳しい監視の下にあり、これまでのところ他のセクターの事業でグループとしての責任を問われたケースはほとんどない。

 同様に、「グループとしての責任」の原則の適用範囲は全世界とするべきである。つまり、企業が共通支配下にある場合、その下の事業体の行為には、それが世界のどこで行われているかに関わりなく、同じ基準が適用されるべきある。

 要約すると、「グループとしての責任」は下記に対して適用される:

  • グループ全体(=共通支配下にあるすべての企業)
  • グループが関わる全ての商品および部門
  • グループを構成する全世界の企業

1.2 本書の目的

 本書では、企業グループに関する責任枠組みイニシアチブ(AFi)による定義に基づいて、特に支配関係が隠蔽されている、またはその他の理由で公表されていない疑いがある場合に、共通支配の証拠を公正に評価するための方法を説明する。本書がサステナビリティ・リスクを伴う商品に関わる資金調達、サプライチェーン、認証に関するサステナビリティ・デューデリジェンス手続きの一環としてグループ構成企業に対する調査を実施する際の基礎となること、またNGOやジャーナリストに対して、隠された支配関係の問題にアプローチする上での指針となることを期待している。

 企業や自然資源開発事業体を最終的に支配しているのは誰かを知るための詳細な情報を含む公開されたデータベースがないため、特に複数の司法管轄地域にわたる支配関係が存在する場合に、支配企業や支配グループとしての責任を明らかにするためには調査が必要である。多くの事業体は正式に設立され、上場している複数の企業に属しており、それらの企業は通常の親会社/子会社構造を持つグループとして編成され、各企業はその子会社やプロジェクトについて自社のウェブサイトまたは年次報告書に多少とも包括的に公開している。企業や事業体は、それらの公開されている組織構造または企業やグループによる宣言に基づいて、より広範な調査なしにグループへの帰属を判断できるが、それは親会社または個人所有者が実際に支配法人であること、またはグループへの帰属について宣言されたグループ構成企業が実際に共通支配下にあることが確信できる限りにおいてである。しかし、そのように形式が整っている場合でも、複合的な構造があるため(ファームイン契約、業務委託契約、合弁事業など)、一部の事業体については管理・支配関係を判断することが困難な場合がある。

 そのような企業や事業体以外に、所有・支配関係が明確でなく、個人または家族が所有する複雑な、またはインフォーマルなネットワークに属し、それらのつながりが公式には確認されておらず(または部分的にのみ確認されており)、また(または)法律上の所有者に決定権がない場合がある。場合によっては、正式のグループや確認されているグループが正式の子会社に加えて、秘密裏に管理されている一連の「シャドーカンパニー」を保有していることもある。さらに、グループが単一の所有構造や宣言されたつながりを持たず、一連の非公開企業で構成されている場合もある。また、家族の別の成員が種々の企業の法的所有者となっていたり、グループの一部が企業情報を機密とする司法管轄地域で登録された会社によって所有され、最終的な所有者がわからない場合もある。また、名義上の株主が受託者、つまり(実際の)受益所有者の代理として株主となるよう委託された個人であり、その身元が公表されていない場合もある(「定義」を参照)。

 上記または他の取り決め(セクションII、ステージ3の隠蔽されている受益所有権の可能性を参照)は合法であることが多く、世界の多くの地域で一般的に行われている。したがって、企業の自己申告と株式所有に関する公開されている情報のみに依拠してグループ構成企業を決定するアプローチでは、グループの一部を特定できない危険性がある。このようなアプローチは、グループがその気になればその全容を隠すために利用できる抜け穴を考慮に入れておらず、それだけでは不十分である。

 支配法人が事業体に対する支配関係を曖昧にしておこうとする理由として、以下のことが考えられる:

  • 租税回避・脱税
  • 温室効果ガス排出、環境破壊、社会的危害に対する責任の回避
  • よく知られているグループ企業の市場アクセスを保護するために、グループの社会的評価への打撃を回避する
  • 独占禁止法による規制の回避
  • 例えば事業許可の取得のために賄賂を要求される国において、それに伴うグループ全体への法的リスクを軽減する
  • 信用補完:資本コストを管理するために、特定の資産を含めるか含めないかに関わる企業境界を設定する
  • 特定の種類の企業に関わる特権の利用または制限の回避(例えば、外国投資の制限や、所有権に関わる特定の基準を満たす企業に対する税制上の優遇措置がある場合)
  • 確実に責任を果たすためには、企業グループを構成する要素を広くとらえる必要があり、単純な所有権のつながりにとどまらず、他の形態の支配(財務、経営、業務支配を含む)も含めて理解する必要がある。

 責任枠組みイニシアチブ(AFi)の用語と定義(2019)はアカウンタビリティ・フレームワークの一部として開発されたもので、企業グループの範囲を調査する際に考慮すべき、グループ構成員である可能性を示唆する要因のリストが含まれている。本書はこのリストを指標化し、調査者がグループの全容に近いものを把握し、その結論の信頼度を評価するための実践的な方法の基礎とすることを目的としている。

この方法の適用分野

この方法には2つの主要な用途がある:

1. グループ全体の構成をマッピングする

 サプライヤー、顧客、金融機関、認証機関はグループまたはグループのいずれかの構成企業と関係を結ぶ前に、デューデリジェンスの一環としてこのような調査を実施することが望ましい。また、NGO、サステナビリティ・コンサルタント、調査報道ジャーナリストは、調査の一環としてグループの全容を把握することが望ましい。この用途では、調査者が企業グループに属している可能性があるすべての企業および事業体を特定することを目標とすると想定している。本書全体において、これを「フル・グループ・マッピング」と呼んでいる。

2. 特定の企業が共通支配下にあるかどうか、または企業が特定の企業グループの支配下にあるかどうかを判断する

 この用途で使用する契機としては、あるグループが申告外で特定の企業や事業体を支配しているという第三者からの申し立てや、すでに不服または苦情処理手続きによって、もしくは規則に基づく調査やその他の調査を通じて提起されている嫌疑が考えられる。これらのケースにおいては、調査は特定された企業に限定されることがある。この用途では、調査者は、特定の関心対象の企業群が既知の企業グループに属しているか否かを知ることを目的とするが、それらの企業以外の潜在的なグループメンバーを特定する必要はないと想定している。本書全体において、これを「パーシャル・グループ・マッピング」と呼んでいる。

 パーシャル・グループ・マッピングによって、調査者はプロセスのいくつかのステップを簡略化することができるかもしれない。そのような場合、本文中で強調表示している。

パーシャル・グループ・マッピングとフル・グループ・マッピングの使い分け
フル・グループ・マッピングパーシャル・グループ・マッピング
グループとしての責任を含めたサステナビリティ評価を確約している銀行が企業への融資を行う前にデューデリジェンスを実施する。あるNGOが、サステナビリティのための努力を確約しているコモディティ取引企業に対して、この企業のサプライヤーの1社が現在森林伐採を行っている企業と共通支配下にあるとする苦情を提出した。
認証機関がその加盟企業に関する申し立てについて調査する中で、その加盟企業が属している企業グループの全容を公表していないという疑いを持つようになり、調査を決定する。ある消費者ブランド製品企業は、すべてのサプライヤーに対して、その企業グループの全容の評価を含むデューデリジェンスを実施している。しかし、メディア報道で既存のサプライヤーの1つが土地紛争に関係している疑いがあることを知り、それがデューデリジェンスのチェックでは特定されていなかったため、調査を決定した。

グローバルな適用性と限界

 この手法は、インドネシアや他の東南アジア地域でのパーム油・紙パルプセクターの企業グループを調査した経験を持つ調査者によって開発された。これが全世界で環境犯罪、人権問題またはその他の法的リスクを抱え、支配関係を明確にする上で困難がある他の商品分野にも適用されることが期待されるが、読者は本書が著者たちの最も関わりが深い地域で発生する問題に偏っていると感じるかもしれない。他の分野や地域にも適用できる手法の開発が望まれる。

期待される調査結果

 この手法は、企業が企業グループに属しているかどうかを判断し、調査中に見つかった証拠および関係企業の対応に基づいて、これらの調査結果の信頼度を総合的に評価する基礎となる。オフショア企業の利用により受益所有権が隠蔽されている場合や、入手可能な証拠が最新でない場合など、疑いの要素を完全に排除することはできない。この手法は、不確実性が残る場合でも、関係者が意思決定を行い、その正当性を示し、その上で適切な行動を取ることができるよう確固とした枠組みを提供することを主な目的として設計されている。

1.3. アカウンタビリティ・フレームワーク・イニシアチブ 企業グループの定義と解釈

 責任枠組みイニシアチブ(AFi)の用語と定義(2019)は企業グループの定義を示し、グループ構成企業であることを示唆している可能性のある要因のリストを示している。

 責任枠組みイニシアチブの要因リストでは、企業グループの定義に使用される「支配」という用語は、株式や議決権の単純過半数を保有することだけでなく、より広い意味で理解されるべきであり、一部の金融取引において使用される典型的な用法を超えて適用することが意図されている(「定義」を参照)。 この手法は現時点で、現行の責任枠組みイニシアチブの定義と同じ意味を持つように、若干の修正と拡張を加えた定義(以下に示す)を採用している。字句の変更は、潜在的な曖昧さを減らし、支配関係が疑わしい可能性がある現実の状況に合わせて定義を適用しやすくすることを意図したものである。各変更点の説明は、付属書1に記載されている。

(企業が属す)企業グループ:特定企業が他の企業の行為または履行を支配する、もしくは全体が同じ個人によって支配されるネットワーク関係に直接または間接的に属している法人の全体。支配は下記のいずれか(1つまたは複数)の方法で行使される。

法的所有権:企業またはその他の資産、もしくは企業またはその他の資産に対する株式の保有を通じた持ち分の登記上の、正式または形式上の所有権。この用語は受益所有権との対比で使用されることが多く、法的所有権が必ずしも支配を伴うわけではないという認識を反映している。

受益所有権:企業またはその他の資産の支配、もしくはそのような資産から金銭的利益を得る権利の最終的所有権または支配権。

同族支配:家族による共通支配 – 異なる企業の受益所有者の間に緊密な家族関係が存在し、それらの企業が家族によって、または家族の利益のために管理されている状態。

経営支配:グループ(またはグループ構成企業の1つ)が企業に対して経営上の決定を行う権限。

業務支配:土地または設備の保有がグループ構成企業の1つによって運営されている状態。

財務支配:グループ、その支配法人、またはその構成企業の1つがある企業に投資するか、または他の方法で資金を拠出し、その結果その企業に対する支配権を行使できるようになる取決め(株式保有を除く)。財務支配は、特定のグループまたは企業が契約または他の拘束的な取決めによって別の企業の製品の唯一の買手となり、その結果、生産企業が買手グループまたは企業に財務的に依存するような取決めがある時に存在すると想定される。

下の表は、広義の企業集団に属すか否かを判断するために使用する指標である。

指標主要な問題支配の種類
指標1(関係の形式)ある企業に対して別の企業または企業グループによる正式の(法律上の)所有権が存在するかー例えば投資持株構造等を通じたものか?法的所有権
指標2(グループの構成企業として宣言されている)調査対象の企業(1つまたは複数)が既知の企業によってその支配下にあると宣言されているか?宣言の性質によって異なる
指標3(隠蔽されている受益所有権の可能性)調査対象の企業(1つまたは複数)の受益所有権が、企業情報を機密とする司法管轄地域での取決め、名義上の株主の使用、またはその他の手段によって隠蔽されているという証拠があるか?実質的所有権
指標4(資源の共有)複数の企業が登録住所または事業所の住所、物理的資産または企業サービスの供給を共有しているか?業務支配、経営支配、受益所有権
指標5(家族関係)複数の企業が同じ家族の構成員によって所有または管理されているという証拠が存在するか?存在する場合、それらが家族全体の利益のために経営されているという証拠があるか?同族支配
指標6(財務上の取決め)調査対象の企業(1つまたは複数)に対して別の企業が融資またはその他の投資もしくは財務上の取決め(供給契約を含む)を通じてそ企業の活動に大きな影響力を行使し、その結果として財務支配権を有することを示唆する証拠があるか?財務支配
指標7(共同経営)複数の企業間で役員および(または)意思決定権を持つ主要な管理者が広範に重複しており、それらの企業が共通の経営支配の下にあることを示す証拠があるか?経営支配
指標8 (業務上の取決め)土地保有および(または)インフラや設備が、グループの支配企業やグループ内のいずれかの企業によって所有されていない場合でも、管理契約等を通じて、グループの業務支配下にあるという証拠があるか?業務支配

 1つの企業の事業を2つ以上の法人が支配している場合があることに留意することが重要である。単純な例として、プランテーション企業XがY社によって所有されているが、契約に基づいて第三者であるZ社によって運営されているような場合がある。このような場合に、通常はYとZの両社がX社の行為に関する重要な意思決定を行う権限を持つが、その権限は分配されており、具体的状況に即して異なることになる。重要な点は、両社がX社の事業に関して、それぞれが所属するグループに対する説明責任を負うとみなされるのに十分な影響力を持っているということである。このような場合、X社はY社の企業グループおよびZ社の企業グループの両方の構成企業とみなされる。

閾値の設定

 ある企業が取った行動に対してグループに責任を負わせることが適切であるとみなされる影響力のレベルは主観的なものであり、本書を利用する際には各利用者の独自の基準や要件に従ってそのレベルを決定することが望ましい。本書では「支配」を実効的な影響力を行使する力という観点から定義しており(「定義」を参照)、以下の各ステージで示している各タイプの支配の定義が適切なデューデリジェンスのための最低基準であると考えている。しかし、利用者によっては、本書で示すよりも低いレベルの影響力を行使しているグループも含めるよう有責性の閾値を拡大することが望ましいと考えるかもしれない。

 法的所有権または受益所有権に関して、利用者によっては、一般的に支配の基準として理解されている株式または議決権の過半数という基準よりも低い有責性の閾値を求めることがあるかも知れない。このような場合、利用者は関連企業に対するクリティカル・ステークを決定し、それによってクリティカル・ステークの最終所有者がその企業の支配法人として扱われるようにするべきである。

 クリティカル・ステークを50%より低く定義することを選択した(または、重要な影響力の基準として本書で示すよりも低い閾値を選択した)利用者は、その旨を利用者の方針および手順において明確に説明し、これらの閾値によって影響を受ける可能性のある企業/グループにこの情報を周知させる必要がある。

 クリティカル・ステークの設定の選択肢に関するより詳細な考察は、調査ガイダンス「クリティカル・ステークの設定と適用に関するガイダンス」に記載されている。

2. 手法の各ステップの説明

 上記の指標は本書で提案する手法の核となるものであり、この手法は5つのステージで構成されている。

 以下に概説するプロセスは、フル・グループ・マッピングとパーシャル・グループ・マッピングのどちらでも利用できる。フル・グループ・マッピングの場合、各ステージのすべての手順を実施する必要がある。パーシャル・グループ・マッピングの場合は、一部のステップを省略または簡略化できる。省略または簡略化できるステップは各ステージの中で示している。

 調査のガイダンスは本書のセクションIIIで、この手法のそれぞれのステージに即して個別に提供されている。これは調査者が遭遇する可能性がある現実の状況に対処するのを支援することを意図している。

・ステージ1:既知の企業構造のマッピング

*ほとんどの場合、正式な所有構造および(または)グループ構成企業の宣言(指標1、2)に依拠するが、グループの支配を明確に示す他の証拠をグループまたは企業(1つまたは複数)から直接に、または官庁情報から取得することもできる。

・ステージ2:追加調査対象企業の特定

*公式のグループの存在が確認された場合、このステージではこのグループがステージ1で確認された構成企業よりも多くの構成企業を含む可能性があるかどうかを判断するために各指標に関連する最初の証拠を照合し、可能性がある場合は当該グループを追加調査対象企業として特定する。また、共通支配の疑いがあるが公式のグループとして特定されていない場合にも、追加調査対象企業が特定されることがある。

*追加調査対象企業は、可能な場合は証拠の分析を容易にするため、正式の所有構造および(または)企業の自主的な宣言に基づいてサブグループに編成される。

・ステージ3:指標別の証拠の収集と分析

*各指標に対応する種々の証拠を収集・分析し、その証拠能力を評価する。

・ステージ4:証拠の集約とコメント機会の提供

*信頼度評価を集約してグループ支配に関する結論を導き出す。結論として、グループがステージ2で特定された追加調査対象企業のうち1社以上を支配している可能性が高いと判断された場合、グループおよび他の関係者に集約された証拠と分析を提示し、それに対するコメントを求める。

・ステージ5:モニタリングとアップデート

*到達した結論が妥当かどうかを定期的に検証する。

2.1. ステージ1 ー 既知の企業構造のマッピング

フル・グループ・マッピング

 このステージの目的は、企業グループの構成企業であることを容易に示すことができ、異議を唱えることが合理的には想定されない企業または事業体をリストすることによって、企業グループの最小限の範囲を確定することである。これは、下記の根拠に基づいて行われる:

  • 企業間の法律上の所有構造を示す証拠で、国家の公式の法人登記や、企業の年次報告書、監査済み財務諸表、または企業による所有権の詳細を示す開示情報などの公式の資料に記載される。
  • 企業がグループに属していることを宣言している下記のような公式の、または信頼できる媒体。
    • 証券取引所への年次報告書または声明書
    • 企業またはグループの公式ウェブサイト
    • グループとしての説明責任に基づく会員資格または設立に関わるポリシーを持つ認証機関に対して提出された宣言書(持続可能なパーム油に関する円卓会議(RSPO)への年次進捗報告書や森林管理協議会(FSC)への設立宣言書など)。
    • NGOが報告書の発表の前にコメント機会を提供した際に、企業、親会社または支配組織が回答として送付した書簡。
  • 支配の形態に関する上記のほかの、異議を唱えることが想定されない決定的な証拠。例えば、グループAがグループBの所有する特定のプランテーションを運営することを明記した契約書のコピーは、グループAがそのプランテーションの運営を支配していることの決定的な証拠となる。

 情報源は決定的な証拠とみなされるためには、それが所有構造の存在を証明している期間に対応するものでなければならない。調査が現在の支配について判断することを目的としている場合、使用される情報源は最新のものでなければならない。調査が過去における支配を判断することを目的としている場合、情報源は必要とされる日付範囲に対応するものでなければならない。

 本書の利用者が、クリティカル・ステークを超える有力な少数株式持分(セクションI.3の「閾値の設定」に関する記述を参照)を支配の決定的証拠とみなしてよいと判断する(したがって、より詳細な調査の必要性を認める)場合、そのクリティカル・ステークを関連する方針または手続き、およびこの決定に基づく調査結果を提示するレポートまたはその他の文書の中で明確に伝達する必要がある。そうでなければ、そのような調査結果に対して関係するグループ、企業または個人から、彼らが支配しているとされる企業の株式の過半数を保有していないという理由で異議を唱えられる可能性がある。

パーシャル・グループ・マッピング

 パーシャル・グループ・マッピングだけが必要である場合、調査者が企業グループの全容を把握する必要はない。したがってこのステージは、調査者が後のステージでの証拠分析に役立つと考える場合以外は省略してもよい。

2.2. ステージ2 ー 追加調査対象企業の特定

フル・グループ・マッピング

 このステージの目的は、ステージ1で確認済みの範囲が確定されたグループについて、それ以外に含まれる可能性のある追加的企業または事業体を特定すること、範囲が確定されていない場合は共通支配下にある疑いがある企業を特定し、追加の調査を行うかどうかを決定することである。

 追加調査対象企業の特定は、主に支配の指標に関連する最初の証拠の収集によって行う。ステージ2の調査ガイダンスに調査すべき状況の例とこのステージの結果についての報告書の推奨構成が記載されている。全面的な調査の実施が適当か否かは、最終的には調査者が収集した最初の証拠に基づいて決定する。

 調査者は特定された追加調査対象企業をサブグループに区分することができる。これらの企業は、ステージ1で特定された確認済みの企業構造の外にあり、共通の法律上の法的所有者によって所有されているか、または企業自身がグループであると認めている企業の集合である。サブグループの特定は、調査員の作業を容易にすることを意図しており、それによって複数企業が同じ最終持株会社によって所有されている場合や、企業自身がグループとして申告している場合に、それらの企業は同じ支配法人を共有していると想定でき、その後にサブグループ内の1つの企業の最終的支配に関する証拠が発見された場合、その証拠がサブグループ全体に対して適用可能であると想定できる。サブグループの詳細については、ステージ2の調査ガイダンスを参照。

パーシャル・グループ・マッピング

 パーシャル・グループ・マッピングが必要な場合、調査対象企業はすでに特定されているため、このステージの調査の多くは省略可能である。しかし、調査者は調査対象企業と同じサブグループ(1つまたは複数)に含まれる他の企業(持株会社を含む)を特定するよう試みるべきである。なぜなら、これらの企業に関連する証拠がそれらの企業の調査にも適用可能であるかも知れないからである。このステージで発見された証拠によって調査対象企業と既知のグループ(ステージ1を参照)の関係が決定的に明確になった、または逆に調査対象企業からは独立している(共同支配の証拠がない)と考えられてきた別のグループの関係が決定的に明確になった場合でも追加的調査は必要とされない。

 また、調査範囲を拡大して、同じサブグループに属さない他の追加調査対象企業を含める必要がある場合もある。例えば、パーシャル・グループ・マッピングでグループXとサブグループYの関連を調査していて、XとYの両方が別のサブグループZに関連している証拠を発見した場合、サブグループZの企業も調査範囲に含める必要がある。

2.3. ステージ3 ー 指標別の証拠の収集と分析

 収集した最初の証拠に基づいて完全な調査が望ましいと判断された場合、セクションI.3 に記載されている8つの指標に従って、調査対象企業の間の支配関係に関する疑いを裏付けるまたは否定する証拠となる関連追加情報を収集し、評価する必要がある。現在の情報と履歴情報の両方が証拠とみなされる。情報源となりうるもの、および履歴データの評価については「調査のガイダンス」を参照のこと。

証拠の分析:原則

 調査対象の各企業またはサブグループに関連する証拠は、該当する指標別にまとめる必要がある。各指標にどのタイプの証拠が関連するかについての具体的なガイダンスと、証拠のそれぞれのタイプについて想定される信頼性、およびそこから結論を導き出す方法に関する注記をステージ3の以下の部分に記述している(記述している例は例示であり、すべてを網羅することを意図していない)。分析の全過程において下記の原則を適用する必要がある:

1. 入手可能なすべての証拠を検討する

 各指標について、共通支配を裏付けるまたは否定するすべての証拠、ならびに発見された証拠に対する別の観点からの説明を考慮することが重要である。目的は証拠を客観的に評価することであって、共通支配を立証するための一方的な議論を展開することではない。

2. すべての証拠の信頼性を評価する

 調査対象の各企業またはサブグループの支配を裏付ける(または否定する)それぞれの証拠のタイプについて信頼性を評価する必要がある。グループ支配の形態を示す証拠は「強い証拠」または「ある程度の証拠」として評価することができる。支配関係を疑われるグループが調査対象企業またはサブグループを支配していないことを示す証拠は、反証と呼ばれることもある。これには、支配関係を疑われるグループによる支配がないことを示す証拠(例えば、いずれかの調査対象の企業が、確認済みのグループ企業に対して起こした訴訟)と、別のグループが調査対象企業またはサブグループを完全に支配していることを示す証拠の両方が含まれる。反証も支配を裏付ける証拠と同様に、「強い反証」または「ある程度の反証」として評価されるべきである。

 支配を裏付ける(または否定する)直接的な証拠とはならないが、他の証拠と合わせて解釈すれば結論を補強するまたは弱める可能性がある証拠、例えば、支配の閾値を満たさない共通少数株主や財務上の取り決めのように、支配関係の存在を断定できないが何らかのつながりを示唆する証拠は「補足的証拠」とみなされる。

 同じ指標に関連して2つ以上の異なるタイプの相互に独立した証拠がある場合、調査者は各タイプの証拠に対して別々の信頼度評価を決定するか、またはその指標に関連する証拠を集約して1つの評価を決定するかを選択できる。同じ指標に関連して複数の異なるタイプの証拠が見つかり、そのどれもが単独では「強い証拠」とはみなされないが、合わせて評価すると「強い証拠」とみなされる場合もある。例えば、プランテーションAの運営管理権を保有している疑いがあるグループの場合を検討する:

  • 地元メディアの報道では、プランテーションAは当該グループの一部として言及されている。
  • 衛星写真から、プランテーションAと当該グループが所有するプランテーションBの間に連続した植栽パターンがあることが示唆される。
  • プランテーションAで働く労働者が、当該グループによる研修を受け、そのままプランテーションAで働くことになったと報告している。

 これらの証拠は単独では運営管理権に関する「強い証拠」とはみなされないが、疑いを否定するような説明がなければ、これらの証拠を合わせて評価することによって信頼度評価が強まる可能性がある。

3. 直接的および間接的な関連を評価する

 複数のサブグループが特定された場合、分析はサブグループごとに支配法人である疑いがある法人との間の明確な関連性を評価できるような方法で実施される必要がある。ただし、サブグループを相互に関連付けるような証拠も考慮することができる。例えば、サブグループAと支配法人を結びつける強い証拠があるが、サブグループBと支配企業を直接に結びつける証拠がほとんどまたは全くない場合、サブグループBをサブグループAと関連付ける証拠を検討し、それによって支配法人との間接的な関連性を立証することも効果的である。そのような場合、確認された関連性が間接的であるため不確実性が高まり、調査結果の信頼性が低下する可能性についても認識しておく必要がある。

パーシャル・グループ・マッピング

 パーシャル・グループ・マッピングでは、特に苦情に関わるケースにおいて、グループ構成企業であるという嫌疑を提起したステークホルダーから証拠が提供されている場合がある。そのような場合、調査者は提供された証拠を検討し、示された解釈が妥当かどうかを評価するだけでなく、独自に調査を実施して他の証拠を探すことも目指すべきである。嫌疑をかけられたグループが証拠の異なる解釈や他の反論を提示することで嫌疑に対応した場合、調査者は示されたすべての証拠を検討するとともに、当該グループ側の説明を裏付ける証拠も探すべきである。

2.4. ステージ4 ー 証拠の集約とコメント機会の提供

 このステージの目的は、ステージ3で評価したすべての証拠を集約し、調査対象の各企業またはサブグループが関連性を疑われるグループに属しているか否かについての総合的な信頼度評価を決定することである。そのための方法は一律ではなく、事情によって異なるアプローチ(または複数のアプローチの組み合わせ)を採用するのが適切である。以下にいくつかの可能なアプローチと、それぞれの最も効果的な適用例を示す。

アプローチ1:各指標の信頼度評価を集約して、総合的な信頼度評価を決定する

 調査者は、各指標について(調査者がその指標について証拠のタイプごとに分析することを選択した場合は、指標の各タイプの証拠について)、「強い証拠」、「ある程度の証拠」、「根拠なし」および/または「反証」を特定する。これらの評価を組み合わせることによって、当該企業またはサブグループのグループ支配に関する総合的な信頼度評価を決定する必要がある。支配を裏付ける補足的な証拠も特定されている場合、これは他の証拠を解釈する上で有用な背景情報を提供する可能性があり、また、全体的な信頼度評価がボーダーライン上にあるような事例では決定に影響を及ぼす可能性がある。

 各指標の信頼度を集約して総合的な信頼度評価を決定する上での推奨基準を下表に示す。

総合的な信頼度指標
強い証拠企業または対象となるサブグループについて評価されたグループ支配の指標または証拠の種類のいずれかに「強い証拠」の評価があり、反証は見つかっていない。
ある程度の証拠企業または対象となるサブグループのグループコントロールについて、1つ以上の指標の下で、異なる種類の証拠に対して少なくとも2つの「いくらかの証拠」の評価がある。たとえば、地元住民へのインタビューと請負業者のウェブサイトからの証拠の両方が、当該グループがプランテーションの運営コントロールを持っていることを示唆している。この全体評価は、グループ支配について「強い証拠」が特定されているが、いくつかの反証が疑念の要素を生じさせた場合にも適切である場合がある。
少ない根拠または根拠なし企業または対象となるサブグループのグループ支配について、1つの指標の下で1種類の証拠に対してのみ「いくつかの証拠」が見つかっている。または、証拠が見つかっていない。
反証グループが企業またはサブグループを支配していないこと、および/または会社またはサブグループが別のグループによってコントロールされていること(共有支配の証拠なし)を示唆する発見された「反証」が、グループ支配の証拠よりも重要である。

 このアプローチを適用できるケース:これはこの手法のここまでのステップと最も直線的につながっているので、ほとんどのケースで最初に試すべきアプローチである。1つまたは複数の指標について強い反証が存在し、他の指標についてグループ支配の証拠が存在する場合には下記のアプローチ4がより適切である可能性がある。

アプローチ2:特定のタイプの支配についての総合的な信頼度評価を決定する

 このアプローチは、セクションI.3で示した広義の企業グループの6つのタイプの支配(法律上の所有権、実質的所有権、同族支配、財務支配、経営支配、業務支配)のそれぞれについて、証拠がどの程度信頼できるかを評価することを目的としている。これは受益所有者が異なる企業であっても、共通の業務、財務、経営または同族支配の下にあることが判明した場合に重要となる。このアプローチでは、調査者は証拠によってどのタイプの支配が示唆されているかを特定し、それぞれについて信頼度評価を決定することを目指す。証拠の評価は調査対象の各企業またはサブグループについて、アプローチ1と同様の方法で決定されるが、結論はグループ支配に関する総合的な信頼度評価を決定することではなく、特定のタイプの支配に関連する信頼度評価として決定される。

このアプローチを適用できるケース

  • このアプローチにより、発見された支配の性質についてより正確に把握することができ、必要な場合、各支配法人に異なる支配形態に関連付けることができる。
  • 調査結果に対して調査対象企業が争う可能性がある場合は、立証しようとする支配の形態をより具体的に示すことが有用である。
  • このアプローチは、調査対象が複数のサブグループまたは企業であり、複数の異なるケースにおいて類似の支配パターンが確認され、グループが一連の共通の支配メカニズムを利用していることが示唆される場合に有用である。

アプローチ3:複数のサブグループ間の信頼度評価をマッピングする

 支配関係が疑われる複数のサブグループが含まれる複雑なグループに対して、2つのサブグループのセットごとに個別に信頼度評価を決定することができる(アプローチ1または2と同じ方法で)。これらを図に表し(下の図2を参照)、サブグループ間のすべての関係を示すネットワークマップを作成し、それに基づいて叙述的な結論を作成することが有用である。このアプローチは、同一グループによる支配の強い証拠がすべてのサブグループではなく一部のサブグループで確認された場合に証拠の解釈に役立つ。また、サブグループが他のサブグループと共通支配の下にある証拠の信頼性を視覚化するのに役立ち、より大きなグループの全体像を把握するのに役立つ可能性がある。例えば、サブグループAを特定の支配法人に関連付ける決定的な証拠または強い証拠があるが、サブグループBをその支配法人に直接に関連付ける証拠はほとんどない、または弱い証拠でしかない場合、サブグループBをサブグループAに関連付ける証拠を検討することが有用であり、それによってサブグループBと支配法人の間接的な関連性が明らかになる。サブグループAがサブグループBと共通支配下にあるという強い証拠があれば、より大きいグループ構造についての結論を導くことができるかもしれない。一般的なルールとして、2つのサブグループの両方が確認済みのグループの「シャドーカンパニー」を含んでいるという疑いがあり、それらのサブグループが共通支配下にあるという証拠の総合的な信頼度評価が「強い証拠」である場合、このどちらかが確認済みのグループと共通支配下にあるという証拠は、この両方が確認済みのグループと共通支配下にある証拠とみなすことができる。しかし、そのような場合、確認された関連性が間接的であるため不確実性が高まり、調査結果の信頼性が低下する可能性についても認識しておく必要がある。

このアプローチを適用できるケース

このアプローチは、複数のサブグループが含まれる複雑なグループにおいて、特に、グループ全体を視覚化するために異なるサブグループ間の関係の証拠が必要な場合に有用である。

  • サブグループAとCの間には、同じ家族の既知の成員によって所有され、AがCの事業拡大を可能にした主要な資金提供者となっており、役員の重複の証拠もあることから、共通支配下にあるという強い証拠がある。
  • サブグループAとBの間にも、共通支配下にあるという強い証拠がある。これらのサブグループ間の広範な経営陣の重複に加え、サブグループBに属す複数企業の主要株主がサブグループAの従業員であり、彼らが名義上の株主として行動していることが証拠によって確認されている。また、現場調査によってサブグループAがサブグループBを経営管理していることを示す証拠も見つかっている。これらの証拠を合わせると、サブグループBがサブグループAの「シャドーカンパニー」によって構成されていることを示す証拠となる。
  • サブグループBとサブグループCを直接に関連付ける証拠はあまり見つかっていないが、サブグループBの持株会社はサブグループCの複数の構成企業と登記上の住所を共有している。
  • サブグループEはサブグループAとの直接的な支配関係はないが、サブグループBとの間には共通の事業所住所の使用、役員の重複に示される強い支配関係があり、また、最近、現場従業員から得られた証言をもとに、従業員がサブグループBに雇用されていることがは判明しており、これは業務支配の強い証拠となる。
  • サブグループDは、支配関係を疑われている家族が部分的に所有しており、サブグループCと何らかの関連があることが示されている。

このような状況では、サブグループA、B、C、Eについては、共通支配下にある同族グループを構成していると十分な信頼性を持って結論付けるのが妥当だろう。ただし、一部の支配関係(例えばサブグループCとEの間)では確認された関連性が間接的であるため、この結論に基づいてさらに決定を行う場合は注意が必要である。サブグループDについてこのグループの構成企業であるか否かを結論づけるためには、さらに調査が必要になる場合がある。

アプローチ4:想定されるシナリオを評価する

 調査者は支配法人が特定の企業やサブグループを支配する方法についてのいくつかのシナリオを想定し、次に、すべての指標にわたって証拠を調査して、どの仮説が確認されるかを確認する必要がある。このアプローチの利点は、調査対象に関する地域、歴史、法律、経済、政治的背景をより明示的に考慮できること、また、補足的証拠(例えば、企業間の支配関係に関する証拠であるが、支配関係が存在するか否かを明確に示す証拠ではないもの)の解釈が可能になることである。

調査者は、検討した各シナリオについて、証拠全体に対する総合的評価を決定し、その理由を明確に述べ、調査結果の信頼度を明記する必要がある。

このアプローチは主観的バイアスのリスクを伴うため、調査に参加していない中立的な立場の者に査読を依頼することが有用である場合がある。

このアプローチを適用できるケース

 このアプローチは、苦情申立人が一連の企業に対する特定グループによる支配を主張し、当該グループがそれに反論しているようなケースに対処する際に特に有用である。このようなケースでは、申し立てと反論が調査すべき主要なシナリオとなるため、調査者がそれらを中心に評価を行うことは合理的である。

 また、調査者が共通支配の証拠と合わせて、重要な反証を見つけた場合、各指標の信頼度評価を単純に組み合わせるアプローチ(アプローチ1)では重要な背景的情報が無視される場合があるので、シナリオベースのアプローチがより適切である。同様に、重要な補足的証拠が見つかった場合、各指標の信頼度評価を組み合わせるよりも、すべてのタイプの証拠を合わせて定性的に評価する方がより現実的であるかも知れない。

集約を作成し、コメントの機会を提供する

調査結果および関連情報は、調査の主要な結論と合わせて表形式にまとめる(参考例は「調査ガイダンス」の項に示している)。

 グループ関係の疑いが確認された場合、この集約レポートを使って調査対象の個人または企業に調査結果についてコメントする機会を提供することができる。調査結果を提示する際には、情報源(もしあれば)が漏洩しないように、またその匿名性を保護するように注意する必要がある。

コメントの機会が提供されるべき関係者には以下の企業または個人が含まれる:

  • サブグループの親会社(フル・グループ・マッピングの場合)。
  • 調査対象企業(パーシャル・グループ・マッピングの場合、またはサブグループの親会社の住所がわからない場合)
  • 調査対象企業が属していると自己申告しているグループと、そのグループの公表されている支配法人(もしあれば)。
  • 上記以外の支配法人であると推定される法人。家族または個人が支配するインフォーマル・グループで、その住所が不明である場合、その家族または個人と最も強い関係があるサブグループ宛に気付(c/o)で送付し、同時にサブグループの親会社にも送付する。
  • 確認済みのグループに含まれる他の重要な企業(例:コングロマリットや多国籍企業グループの関連する産業分野または国に対応する子会社)。

 上記のアプローチに基づく通知を受けた企業または個人は、この調査結果を確認するため、またはグループ支配に関する調査結果に対する反証を提供するために、返信することができる。単に調査結果を否認する書簡はそれだけではグループ支配に対する反証とはならない。企業グループに関する責任枠組みイニシアチブ(AFi)の定義に基づく詳細な調査の結果は、信頼できる、具体的かつ最新の証拠に基づいてのみ棄却されるべきであり、そのような証拠は通常はこの通知への回答者側で別の支配法人を特定し、調査によって収集された証拠と合わせて検討できるように準備されなければならない。

 集約された証拠によってグループ支配の可能性が示唆される場合、調査対象の企業(1つまたは複数)がグループを支配していないことを示す立証責任は、支配法人であると推定された法人の側に課される。

 調査者は、受け取った回答を集約済みの証拠との関連で評価すべきであり、提供された新たな情報がステージ4で到達した結論の変更をもたらすものであるか否かを最終的に決定する必要がある。

 コメント機会への応答の意味を評価する際には、以下の設問に答える必要がある(図3を参照):

  1. 回答は新しい証拠を提示しているか?
  2. 提示された新しい証拠は最新かつ公式のもの(またはその他の理由で信頼できるもの)か?
  3. 新しい証拠は、調査の中でグループ支配に関する結論を導き出すために使用された証拠の一部または全部を無効にする、またはそれらの信頼性を低減させるか?
  4. 新しい証拠は調査結果から推定された支配法人と異なる支配法人を特定している、または企業またはサブグループの関係が共通支配の存在を否認できるほど独立的であることを証明しているか?
  5. 他の特定された支配法人が実際には独立しておらず、調査によって特定された推定される支配法人に支配されていると信じるに足る理由があるか?
  6. 新しい証拠を考慮に入れて、調査によって特定された推定されるグループ支配について、どのような結論を導き出すことができるか?

調査結果のフォローアップ

 ここまでのプロセスですべての対象企業についてグループ支配に関する総合的な信頼度評価が得られている。下表は、この手法の2つの主要な用途であるフル・グループ・マッピングとパーシャル・グループ・マッピングのそれぞれについて、適切なフォローアップのステップを示している:前者は潜在顧客、サプライヤー、金融機関、認証機関がグループと関係を持つ前にデューデリジェンスの一環として行い、後者は苦情処理手続きの中で提起された申し立てを調査するために行う。

総合的な信頼度指標
強い証拠企業または対象となるサブグループについて評価されたグループ支配の指標または証拠の種類のいずれかに「強い証拠」の評価があり、反証は見つかっていない。
ある程度の証拠企業または対象となるサブグループのグループコントロールについて、1つ以上の指標の下で、異なる種類の証拠に対して少なくとも2つの「いくらかの証拠」の評価がある。たとえば、地元住民へのインタビューと請負業者のウェブサイトからの証拠の両方が、当該グループがプランテーションの運営コントロールを持っていることを示唆している。この全体評価は、グループ支配について「強い証拠」が特定されているが、いくつかの反証が疑念の要素を生じさせた場合にも適切である場合がある。
少ない根拠または根拠なし企業または対象となるサブグループのグループ支配について、1つの指標の下で1種類の証拠に対してのみ「いくつかの証拠」が見つかっている。または、証拠が見つかっていない。
反証グループが企業またはサブグループを支配していないこと、および/または会社またはサブグループが別のグループによってコントロールされていること(共有支配の証拠なし)を示唆する発見された「反証」が、グループ支配の証拠よりも重要である。

2.5. ステージ5 ー モニターおよびアップデート

 複雑な、不透明な、またはインフォーマルな企業グループの構造と範囲を確定する作業は困難であり、そのことはこの手法および関連するガイダンスにリストされている広範な潜在的な情報源からも明らかである。したがって、いかなる調査によって得られた結果も不完全であり、変化する可能性があると考えなければならない。特に、一部の商品生産者のグループは、おそらく真の支配関係を不明瞭にすることも意図して、プランテーション企業の所有権および(または)経営権を頻繁に再編する。したがって、これらの構造をマッピングする作業は継続的に行う必要がある。情報の再検討の最適な頻度は、調査対象グループの構造がどの程度ダイナミックに変化しているかによって決まる。

 一般的なルールとして、この手法による最初の調査が完了した後、1年に1回モニタリングを実施することを推奨する。その場合、本書の簡易バージョンとして、主要なデータソースのみをチェックしてもよい。

 受益所有者が依然として隠蔽されているか、その疑いがある場合、モニタリングチェックの中で、ステージ3および関連する調査ガイダンス(特に「履歴情報の使用」を参照)に記載されている方法で支配権の変化を示す可能性がある重要な事象を特定し、評価することが有用であるかも知れない。